魅惑のプリズナー〜私は貴方に囚われた〜




前にも同じことを彼は私に聞いた。


私はそれを肯定した。


その前も、私はその意を示した。


その都度彼は、安堵していた。


閉じ込めたはずの私がそう漏らせば、普通は焦りが生まれそうなものだというのに。



けれど、今なら分かる。


問いかける、その意味が。意図が。


病室で話を聞いてから。カフェでアサヒのことを聞いてから。


記憶がある今、気付いてしまった。



「出たいか」と。


彼はあらかじめ用意されたそれを問うことで、私の記憶が戻っていないことを再確認していたのだ。



記憶がなければ、「出たい」と言うのが抗う人間のごく自然な心理。


たとえ「出たくない」と言えども、怯えて、期待される言葉に同調しているだけかもしれない。


けれども、意図するところは全く別にあった。



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