魅惑のプリズナー〜私は貴方に囚われた〜




追いかける影。


追われる脆弱な生き物を嘲笑いながら、首を傾げる。



「どうして逃げるの?」


訳が分からない、と。


自身の行いが善か悪かの区別もつかずに、追い詰めていく。


「ひっ……!や、やめ…っ」


ぐしゃり。


耳障りな音が辺りに響いて、追われた少年の叫びを誘発させる。


哀れにもボロボロの顔を見せ、なおも許しを請う。


「た、ずげ……で……だ、れ…か……」


鼻は曲がり、唇は大きく切れて、最早まともな言葉を発することさえ難しい。


けれど、無情な悪魔は秀麗な顔に変わらぬ微笑を浮かべた。



「“助けて”?誰に言っているんだろうね、それは」


その顔が醜悪に歪むことなどあり得ない。


なぜなら、それらは純粋ゆえの行動なのだから。



< 91 / 326 >

この作品をシェア

pagetop