イジワルな彼と夢みたいな恋を?
「……私」


振り返った岡崎さんの視線も見ずに、木材の香りを胸いっぱいに吸い込んで呟いた。



「あの家が出来上がったら、いの一番に見に来ます」


早く教えて下さいね…と頼んだ。
オフィスに帰り、建築中のモデルハウスを見に行ったと話したら、「ズルい!」と皆から叱られた。


「俺はてっきり一ノ瀬さんのことを聞きに行ったんだろうと思ってたんだけど、モデルハウスを見に行く予定だったのなら、一緒について行きたかったっす」

「あっ、私も〜〜!」

「オレもだよー。大田さん、職権乱用もいいとこれすよー」

「せめて写メくらい撮ってて欲しかったね」


主任に言われて「あ、そうか」と気づいた。
全く違う用件で岡崎さんの元へ行ったから、そんなことは頭にも上らなかった。



「まぁまぁ。四月に入ればどっちにしても出来上がるから」


それを楽しみに仕事しようと言った。

四月になれば、あいつは新社長として、このオフィスにも来ることがあると思う。


そしたらもう二度と肩を並べて歩けない。
あの食事をした日が最後で、あの肝試しの夜と同じく、

離された手は二度と、繋がれたりしないんだ………。



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