イジワルな彼と夢みたいな恋を?
「偵察か?」


ビクッとして手を止めた。
聞き馴染みのある声だけど、まさかこんな所にいる訳もない。


「やだなぁ、偵察なんてそんな滅相もない」


人聞き悪いですよ…と言いながら振り向いた。


「ワッ!」

「ヒィッ!!」


心臓が飛び出すかと思うくらい驚いて仰け反った。
驚かした本人はウケたみたいで、お腹を抱えて吹き出す。


「サイコー!大田の反応ってやっぱ期待通り!」


可笑しそうに体を曲げて笑ってる。



「な…な……」


なんであんたが此処にいるのよ!?


……そんな言葉も出せずに見つめてしまった。

細くなってた鳶色っぽい瞳が見開き、笑い過ぎた目尻に涙が浮かんでる。


「なんて顔してんだよ」


指で額を弾かれた。
過去と同じ行動を取る相手を前に、私はどう対処していいかもわからず黙った。


何かを問いかけようとは思った。
絵里から聞いた話を問い合わせて謝らないと…とも思った。


でも、相変わらずのイケメンオーラを背負ってる人を目の当たりにすると、何も言葉が出ずに俯いた。


「大田……?」


「社長」


背後から聞こえる男性の声にビクッと肩が揺れる。
目の前の男は目を伏せ、仕方なさそうに振り返った。


「お時間がありません」


黒っぽいスーツを着た男性がそう囁いた。
振り向いてる男は「わかってる」と一言だけ答えて向き直る。


< 112 / 166 >

この作品をシェア

pagetop