イジワルな彼と夢みたいな恋を?
「会えて良かった。今日はちょっと立ち寄っただけなんだ。あいつ等元気か?」


「え?…ええ…あ、はい…」


ゆとりちゃん達のことが頭に浮かんだ。
いろいろ噂してると伝えたかったけど、この人は社長だった…と思うと、言い方も余所余所しくなってしまった。


私の返事を聞いて、目の前に立つ男が寂しそうな表情を見せる。
何の弁解もせずに私のことを見続けていた。



「…また来る。竣工式で会おう」


そう言い残して向きを変えた。
時間がないと言った男性に車のドアを開けられて乗り込む。


シルバーメタリックの高級車が、目の前を滑るように静かに走り抜けていく。

その後部座席位に座る人は、私の初恋の相手で。

過去も現在も、胸の奥で一番輝いてる人だ。




「一ノ瀬……圭太……」


あんな高級車に乗るような人だとは思わなかった。

高そうなスーツに身を包み、宝石の付いたタイピンを留め、ちらりと見えたカフスボタンも腕時計も、きっと高級ブランドに違いない物を身に付けてる。


お正月に比べたら幾らか肌の色が冷めてた。
でも、鳶色っぽい瞳も、呆れるくらい子供っぽいところも変わってなかった。


「大田」…と呼び捨てにされた。
あの頃と少しも変わらない呼び方で、腹を立ててもいいと思うのに……。




「なんで……涙なんか……」


目の奥が潤んで痛い。
鼻の方にもつぅーんとした刺激が走る。


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