イジワルな彼と夢みたいな恋を?
絵里の声は反響してる。


「絵里、もしかしてトイレの中から?」

「そうよ。役所ってここ以外に逃げ場がないのよ。それよりも一ノ瀬君のことだけど」


また一ノ瀬圭太か。



「何?」

「さっきね、珍しい人が役所に来たの。誰だと思う?……なんと坂上君!」

「坂上君?…へぇー、珍しいね」


中三の時に同じクラスの学級委員をした人。

私の印象では、一ノ瀬圭太以来やっと少しだけマトモな相手だと思えた人だ。


「その坂上君の話ではね、一ノ瀬君は美晴に会いたいから、わざわざ同窓会に参加しに来たんだそうよ」

「えっ!?私!?」

「そうよ、元旦までハワイに居たんだけど、急遽帰国してきたって言ってた」

「えっ、どうして」


あれやっぱりハワイ焼けだったのか。


「なんで私なんかに会いに」

「そりゃ本人に聞きなさいよ。電話はもうした?ちゃんと謝った?」


「…ううん、まだ」

「何やってるの!」

「それが、いろいろと事情があって…」


一ノ瀬圭太がオフィスの新社長をすることになった話はまだ絵里にはしてない。
言えば彼女も納得がいくかと思い、口を開きかけたけど。


「ごめん。私これ以上席空けてられないの。この時期は忙しくてね、また話そう!」


早く謝んなさいね…と付け足されて電話が切れた。

私はまたしてもディスプレイの画面が暗くなるまで眺め続ける。


< 118 / 166 >

この作品をシェア

pagetop