イジワルな彼と夢みたいな恋を?
何気にじーちゃんの視界が開かれてる。
輪になってた人達の一部が、前を見れる様に避けたんだ。


「次の式典が待ち構えておりますが」


どうやらこの「時間がない」発言の人は秘書らしく、側へ寄りながら胸のポケットから手帳を取り出してる。


「次は何処だ」

「関西支社ですね」

「遠いな」


呟きながら盃を煽ったじーちゃんは、それを私に向けた。


「お嬢さん、ご馳走様」


えーとぉ…


「あ、いえ」


瓶を小脇に抱え、両手で盃を受け取る。

秘書共々歩き出すじーちゃんの背中を見つめ、呆然と立ち尽くしてしまった。




(ハッ!そうだ!)


くるっと振り向くと彼はまだそこに居る。
あんたは行かなくていーの?という目つきで、ジロッと様子を窺った。

私の視線に気づいた彼がニヤリと笑いを浮かべる。
盃に残った清酒を一気飲みして、空の盃を岡崎さんに手渡した。



「ちょっと内覧してきます」


「貸せ」と一言発し、私の手から物を取り上げる。
それらを岡崎さんに持たせ、さっと踵を返した。


「行くぞ」


歩き出す背中と岡崎さんを交互に見比べた。


「圭君が待ってるよ」


岡崎さんの声に驚き、彼の方に視線を向けると。



「大田美晴!急げ!」


中学の頃、人一倍煩くてイジワルだった男がフルネームで呼ぶ。

まるであの頃のようだと、夢を見てるような気分に襲われた。



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