イジワルな彼と夢みたいな恋を?
そう言いながらも心臓の音は加速を続ける。
彼とこんなふうに触れ合うなんて、少しも思い描きもしなかった。



「俺さ…」


私の焦りも気にも留めず、奴は上を向いたまま声を出した。
その横顔を眺め、さっきの続きが始まるんだろうかと身構えた。


一瞬の間を空き、一ノ瀬圭太は喋りだした。


「…中一の夏休みに叔父さんのお見舞いに行ったんだ。びっくりするくらい痩せてて、腕に二十四時間の持続点滴を受けてた」


悲しそうにも見える横顔に向かって「話はできたの?」と聞いた。


「何とかな。でも、鎮痛剤の作用で呂律は回ってないし、短い時間しか話せなくて辛かった」


目を開けた横顔は、遠い日を振り返ってるようだ。
唇がきゅっと閉まり、その短い時間がホントに切なかったんだと感じられる。


「叔父さんには子供がいなくて、俺を自分の子供のように可愛がってくれた。それでからか、見舞いに行った時にぽそっと小声で願ったんだ」


「何て?」




「……『会社を頼む』…って」



呟くと同時にぎゅっと目を瞑った。
枕にしてた腕に力を込めたらしく、スーツのシワがピーンと張った。


「無茶言うよな。俺、中一だったのに…」


呆れるように囁く声が聞こえた。
努めて明るく振る舞ってるみたいだけど、態度が緊張してる。


「それで?……何て答えたの?」


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