イジワルな彼と夢みたいな恋を?
その質問をしながらも、答えは聞かなくても予想できた。
彼はきっとこう言った筈だ。




「『……わかった。任せて…』」



やっぱりね…と心の中で呟く。
何でも前向きに捉えようとする彼らしい答えだ。

でも…


「それで転校したの?」


大切な人と約束したから?


「そんな訳ないだろ。俺はただ叔父さんを安心させてやりたくてそう言っただけ。……けど、一人だけそうと捉えれない奴がいた」


じっと見てた私の方に向きを変え、一ノ瀬圭太が目を開ける。


「叔母さん?」


同じ病室で看病してただろうと思って聞いた。


「違うよ」


一ノ瀬圭太は微笑む。

鳶色っぽい瞳が近すぎて焦る。
肝試しの夜よりも近い距離にあると思うと、どうにも胸が踊る。


「じゃあ誰?」


気持ちを抑えて尋ねた。

早く話を切り上げてしまいたい。
このままの状態でいれば、胸の方がどうにかなりそう。


直ぐに答えがなくて間が空いた。
じっとこっちを見てる奴からわざと視線を逸らした。


「大田さ」


頭の上から声がしてドキッとする。
顔も見れないまま「何?」と聞き返した。


「じーさんの顔、覚えてなかったんだろ」


そう言われて目を向ける。
じーさんと彼が呼ぶのは、もしかして、あの人のこと……?


「それって、会長?」


私を「お嬢さん」と呼んだ白髪のご老人を思い浮かべた。


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