イジワルな彼と夢みたいな恋を?
よくよく思い返してみれば、瞳の色が何となく彼に似てる。


「新人社員じゃあるまいし、オフィスの会長の顔くらい覚えとけよ」


バカにするような言い方をされ、ムッとするけど確かにそうだ。


「私はしがない支社勤務だから、お顔なんて殆ど拝見しないのよ!」


言い訳がましく言い返した。
回報でしか見ない顔を一々頭に残しておくような余裕はない。


「開き直ったな」

「弁解しても仕方ないでしょ」


論点が違ってきてる。
もう起き上がろうかと腕に力を込めると、奴が口を開いて言った。


「その会長がネックだった。俺の言葉を聞いて、それなら…と勝手に転校の手続きをしやがった」


びっくりして顔を覗き込んだ。


ホントに?
つーか、それって可能?



「お、お父さん達の許可は?」

「そんなもの取るようなじーさんかよ。しかも、親父には反対する権利はない」

「ど、どうして!?」


勢いよく上半身を起こした。
身を転がしていた一ノ瀬圭太も起きだし、私の方に向く。


「親父はじーさんの会社を継ぐのが嫌で、お袋の家に婿養子に入ってたんだ。自分には継ぐ気がないもんだから、俺を後継者にすると言われても拒否はできなかった」


そう話すと、自分と会長の姓が違うのも知らないんだろうと言われた。
知らないも何も、会長の名前なんて記憶にも残ってない。


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