続*おやすみを言う前に

「あ、拓馬。帰ってたんだ。」


ただ何もない天井を見上げていたら、麻衣子が部屋から出てきた。大きな欠伸をしながら。寝癖がついたままの前髪から疲れ切った表情が覗く。


「さっき帰ってきた。気付かんかった?」

「うん、いつの間にか寝落ちしてて。」


麻衣子は冷蔵庫からサイダーを出してコップに注ぐと、それを一気に飲み干した。

普段は炭酸飲料を口にしないが、眠い時に飲むと頭がスッキリするらしくこのところ常備している。


「寝落ちするくらいやったら、ちゃんと横んなって寝た方がいいんちゃう?」

「うん、でも時間ないし。」


疲れたまんまの顔でそう言うと、空のコップをシンクに置いた。


「大丈夫やろ。ちょっとくらいの時間で今更変わらんって。」


あー、やめろ、俺。

コップが置かれる乾いた音を皮切りに、余計なことを喋り出す口が勝手に。


「そうかもしれないけど、後悔したくないから、限界まで頑張ったって思いたいから。」

「そんなん、今までの全部の時間の中で見たら、まだまだ頑張れたことだらけやん。」


止まれ、俺。



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