続*おやすみを言う前に
「俺やって疲れとんのに、麻衣子は自分のことばっかりやな。」
言ってしまった。
麻衣子は何も言わなかった。しばらく立ち尽くした後自室へ引き返して行った。スリッパのぺたぺたという音だけが、響いた。
ああーやってしまった。最悪や、最低や。
ただの八つ当たりだ。麻衣子の試験の日程はずっと前から決まっていたのに。麻衣子の教師になるという目標が叶うかどうかの、大きな大きな日なのに。
なんであんな言い方してもうたんやろ。大人気ない。今更だのなんだの、ただの屁理屈や。
今までだって麻衣子は頑張ってきた。コツコツコツコツ勉強して、休みの日にたまに出掛けても夜は必ず勉強、寝る前にも勉強。
なんか、なんかわからんけど、おかえりもお疲れもなくて、月曜から三日連続終電帰りで今日はちょっと早く帰れてそれでも残業で、洗い物がひとつ増えるって思ったらセーブ出来んくなった。俺むっちゃ心狭いやん。器ちっさー。
泣かせたかもしらん。どんな表情をしていたのだろう。
ほんま何やっとんのやろ。仕事の嫌なことを彼女にぶつけてしまうなんて、しかもメンタル大事な時期の彼女に。
自己嫌悪まで上塗りしたスーツはより重くなって、動けない。