続*おやすみを言う前に


* * *


少しでも早く帰ろうと気合いで仕事を片付け、閉店間際の駅ビルで買ったトンカツとアイスをぶら下げて帰宅した午後九時過ぎ。


「ただいまー。……麻衣子?」


部屋が明るい。ついでになんだか空気が新しい。廊下の先のドアからは光が漏れることなく、ほんのりカレーの匂い。


「おかえり。」


ダイニングに足を踏み入れると、リビングのソファーで参考書らしき本を読んでいた麻衣子が気まずそうに顔を上げた。

キッチンもリビングもぴかぴかに掃除がされている。

麻衣子は分厚い本を閉じると、ゆっくり立ち上がって言った。


「ごめんなさい。」

「え、何が?」


突然の展開。帰ったらどう話を持っていこうかと組み立てていたことが真っさらになる。


「私、このところずっと、拓馬の言う通り自分のことしか考えてなかった。拓馬が最近帰りが遅いのもわかってたのに、家事任せっぱなしにしちゃって、ごめんね。」


泣きそうな顔で睫毛を伏せる。

麻衣子は何も悪くないのに。キャパ狭い俺が悪いのに。「大事な試験前なんだから協力してよ!」って怒られてもしゃーないことしたのに、自分が悪いんだって謝る。それが麻衣子やねんな。

ほんまかなわん。

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