続*おやすみを言う前に

木曜日。麻衣子の教員採用試験の当日。

早めに家を出るという麻衣子に合わせて、いつもより三十分早く駅まで向かう。

気温の上昇を背中に感じながら、手を繋いで歩く朝は新鮮だ。


「ばっちり?」

「うん、やれることはやった。」


緊張しているらしく汗ばんでいる左手を強く握った。リクルートスーツ姿がまだ初々しい。


「せやけど、もうちょい俺を上手く使うたらよかったんに。」

「えー、そんなの出来ないよ。」

「洗濯やっといてー掃除しといてーって語尾にハートマーク付けて言うて、ちゅーの一つや二つしたら俺尻尾振ってやるやん?」

「そうなの?」

「そうやで。」

「ちゅーはほっぺでいい?」

「それは認めん。」


ふふ、と麻衣子が笑って、ああ、試験に合格したらもっととびっきりの笑顔が見れるんやろなあと不意に思う。

麻衣子が一生懸命やったことが結果として形になればいい。数年だが社会人として世の中を見てきた俺は、努力が結果に必ずしも反映される訳ではないと知っている。

しかし、今回ばかりは願う。たった一人の大切な女の子の夢を、目標を、叶えてほしい。
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