続*おやすみを言う前に

「彼女さーん、ちょっとデート行かん?」


夕食の片付け後テレビを観ていたら、お風呂掃除を終えた拓馬が悪戯っぽく言ってきた。


「え、今から?」

「そうや。そのまんまの格好でええから行くで。」


いきなりの提案に驚きつつも、拓馬のペースにはまり、部屋着のショートパンツをデニムに履き替えただけですぐに出発する。

もう九時近いというのに、昼間の焼けるような暑さは暗闇の中にまだたっぷりと余韻を残している。風のないぬるく湿った空気と、夜更かしの蝉の声がまばらに。


「もう、DVD返しに行くだけなんてデートじゃないじゃん。」

「なんでや。手ぇ繋いどんねんからデートやろ。」


拓馬は私の左手を握る右手をぶんぶん上下に振り回した。反対側の手にはレンタルビデオ店の袋。

返却期限が今日のDVDをまだ返していないから一緒に行こう、というのが外出の主旨だったのだ。目的地は駅とは反対方向に徒歩五分。

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