続*おやすみを言う前に
「そういえば、最近どこも連れてってやれてないな。」
「全然デートしてないもんね。近くでいいからどこか行きたいな。」
「どっか行こっか?一泊くらいでさ。麻衣子来週テスト終わったら夏休みやろ?」
「いいの?私は休みだけど拓馬は仕事でしょ?」
「有休溜まっとるから消化しろーて上司から言われてんねん。ちょうどええから休み取る。どこ行きたい?」
「どうしよう、どこがいいかなあ。」
やった。急な外出に付き合わされたことも吹っ飛んで頬が緩む。遠出するのは冬に何度か日帰りでスノボに行った以来だ。
教員採用試験の結果待ち中ではあるけれど、学生生活最後の夏休み。楽しいこともたくさんしたい。
「俺は麻衣子の水着見られる海か、部屋風呂付きの温泉希望やな。」
「じゃあそれ以外にする。」
「なんでやねん、俺の意見は丸無視か。」
「だって、目的が不純。」
「あほちゃうー?彼女といちゃいちゃしたいっちゅーのは健全やろ、純粋やろ。」
冗談だか本気だかわからない拓馬の発言を聞き流しているうちに、レンタルビデオ店の青い看板が見えてきた。
地元ではDVDを借りに行くのに車で十五分はかかる。雪が積もれば倍だ。東京は何でも徒歩圏内にあって、それが物足りなく感じることもあるけれど、たぶん私は此処で暮らしてゆくんだろう。