続*おやすみを言う前に
「もしもし、拓馬?」
「あ、起きとった?」
「うん、もうすぐ寝るところ。電話珍しいね、どうしたの?」
「今駅着いたから、これから帰る。」
最寄り駅の改札をくぐって麻衣子に電話をかけた深夜零時五十分。
寝とるかな、今日は一番最後の授業まで塾講師のバイトがあると言っていたからまだ起きとるかな、と半々でボタンを押して、六コール目で出た可愛らしい声。
「電車乗る前にメールくれたから知ってるよ。」
「そうなんやけどさ。」
オレンジ色の街灯が光る角を右折する。温く風のない夜の道。
麻衣子の言う通り電話をすることは滅多にないけれど、ほろ酔いでいい気分だからか、村木の結婚という嬉しいニュースを聞いたからか、何かわからない感情が指を勝手に動かした。
「どうやらうちの彼女さんはモテるらしいから、もっと大事にせなあかんなあと思ってさ。」
「なーに、それ。酔っ払いなの?」
笑い声が耳元で弾けた。
不意に、遠距離の頃毎日のように電話していたことを思い出して懐かしくなる。