続*おやすみを言う前に
教員を目指す一環として大学に入学後すぐこの塾でバイトを始めた。個別指導と集団授業とどちらも行なっていて、私は大体半々で授業を受け持っている。
生徒たちと関わるのはとても楽しい。この子に成果を掴んでもらうにはどうサポートしたらいいだろう、と考えながら仕事をするのはやりがいがある。
先日受験した教員採用試験の一次試験の結果が出るまで二週間を切った。何もすることがないと結果ばかり考えてそわそわモヤモヤしてしまうから、バイトしている方がいい。
「小高せんせ!さっきの彼氏の話の続き教えてよー!」
学校みたいなチャイムが鳴って授業を終えると、さっさと勉強道具を鞄に突っ込んだ摩鈴ちゃんがうきうきと言った。
「そんな面白い話はないよ。」
「いいの!ただ知りたいの!ねね、彼氏どんな人?」
「うーん、年上の、社会人。」
キラキラ輝く純粋な瞳に見つめられ、どう答えたものか迷う。
中には積極的にオープンに話をして、受け持ちの生徒はもちろんそれ以外にも人気があるタイプの先生もいる。けれど私は、生徒にはあまり自分の話をしない。
テスト勉強のやり方、おすすめの参考書等は実体験を交えて教えることもあるが、生徒に拓馬について話すのは初めてだ。隠すことでもないのだろうけれど、ここでの「先生」と呼ばれる立場で語るのは気恥ずかしい。