続*おやすみを言う前に

「ただいま。拓馬ー?帰ってるの?」


鍵を差し込んで回したら閉まってしまい、もう一度回してドアを開けた。どうやら元々開いていたらしい。

スーパーの袋をぶら下げた午後五時ちょっと前。まだまだ暑い時間帯だ。

額の汗を手の甲で拭いながらサンダルを脱いで奥へ進むと、ソファーに寝ている拓馬がいた。


「おかえり。」


いつもより小さい声。

窓を半分網戸にして、扇風機を弱く当てている。


「どうしたの?具合悪いの?」

「うん、麻衣子の言う通りやった。悪化した。」


鼻声の力無い返事。

近付いてみると、顔色の悪い拓馬がTシャツの首元を汗で濡らしたまま横たわっている。本当に体調が悪そうだ。

今朝、「なんか昨日の夜から鼻水止まらんねん。」とティッシュで鼻をかみながら起きてきた拓馬に、「風邪ひいたんじゃない?出掛けて大丈夫?」と声をかけたのだ。


「わ、たぶん熱あるよ。体温計持ってくる。」


汗で張り付く髪を退けて右手を当てると、外を歩いてきた私の手のひらよりも熱いおでこ。

救急箱から体温計を出して手渡すと、拓馬はのそのそと襟首から脇に差し込んだ。
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