続*おやすみを言う前に
部屋を覗くと、薄く寝息を立てている拓馬がいた。
首を振る扇風機が数秒に一度髪をふわりと浮き上がらせる。そっと足を踏み入れて、ベッドの側まで近寄ると、口を半分開けたまま眠る拓馬。
いつも冗談や変態発言ばかり繰り返しているとは思えないようなあどけない寝顔に、愛しさがきゅっと込み上げた。
近くのドラッグストアで冷却シートやポカリやゼリーを買ってきた。早速冷却シートを貼ってもらおうと思ったけれど、眠っているなら起こさない方がいいかな。
拓馬の部屋にはエアコンがないため、リビングのエアコンから冷風が届くよう、ドアは半開きのままそっとキッチンに戻る。
ドラッグストアに行く前にスイッチを押した炊飯器からは、炊き上がりまであと十分の表示が出ている。
早く、治るといいな。なぜなら、五日後からは旅行の予定だ。
宿を決めてから、毎晩のようにやいのやいのと相談し合ってプランを立てた。出来るだけ事前に計画を立てたい私とは反対に、拓馬は「そん時の気分とか天気とかで決めたらええんちゃう?」というタイプなので、間をとって大体の回る順番だけ設定した。
拓馬といると、世界が広がる。行き当たりばったりの旅行なんて私一人では想像つかない。だけど拓馬と一緒なら。もし万が一何か起こっても大丈夫だろうなと思える。
自分用のミートソースが丁度出来上がった時、炊飯器が炊き上がりの合図を鳴らした。