続*おやすみを言う前に
「で、君が送ってきてくれたん?タクシー?」
「そうです、僕が一番家が近かったので。」
「店から?店どこ?」
「あ、はい。大学の近くで飲んでました。」
「そっか、ありがとう。悪いけど、ちょっと待っとって。」
男に言い残し、お姫様抱っこで抱えてリビングのソファーまで運んだ。靴を脱がす。
麻衣子は低く唸るような声をあげ眉間に皺を寄せた。相当気持ち悪いらしい。
脱がせた靴と財布を持って玄関に戻る。男は所在無さげに縮こまっていた。
「この時間で大学からやと、このくらいで足りる?」
千円札を三枚、差し出した。
足りるどころか一枚多いくらいだとわかっているけれど、そこは見栄だ。くだらないが、そうしないと気が休まらない。
「いや、大丈夫です。自分もこの辺ですし。」
「ええって。彼女送ってもらっといて手ぶらで帰されへんから。」
必要以上に口調が強くならないように。相手に余裕に思われるように。
「いや、でもこんなに。」
「この時間ならまだ電車あるのに、麻衣子のためにタクシー使うてくれたんやろ。お礼やから、とっといて。」
胸の前に突きつけると俺の有無を言わせない視線に観念したのか、男は渋々といった様相で受け取った。
ワックスで無造作に整えられた髪の下で、薄い目が伏せられた。