続*おやすみを言う前に
同棲を始めたばかりの頃。洗濯カゴに入っていた麻衣子のニットを、良かれと思って洗濯して縮ませてしまい、ものすごく怒られたことがある。
それ以来俺が麻衣子の服にさわるのは禁止されているので、一緒に住んでいても疎いままだ。
「可愛いて褒めてんねんから、それでええやん。」
「適当に褒められても嬉しくない。」
「適当が嫌なんやったら、具体的に褒めたらええの?んー、まず生地薄そうなとこえろいしー、おっぱいのラインがえ、」
「何言ってんの!」
ちょうど左カーブに差し掛かりハンドルを握る集中力を上げたため顔は見えないけれど。きっと照れ顔をしているだろう助手席。
「あと脱がしやすそうなと、」
「もういい!」
「なんやねん。具体的に褒めろ言うから褒めてんのに。」
「そういうことじゃない。」
青いスポーツカーがとんでもないスピードで通り過ぎてゆく。車内は再び涼しくなってきた。
心なしか潮風の匂いがしてくるような。
「あと二十三分だって。もうすぐだね。」
カーナビを覗き込んだ麻衣子が弾んだ声を上げる。
炭酸の抜け切ったコーラを煽り、アクセルを強く踏んだ。