続*おやすみを言う前に

「わー着いたー!」


珍しく声を張り上げた麻衣子の左手を握る。


「絶景やな。」


出発してから約二時間半。芦ノ湖に到着し、箱根神社の駐車場に車を停めた。

青々としたなだらかな山に、冴え渡るブルーの湖面。夏満開のコントラストに感嘆の溜め息が漏れる。


「ね、あれって富士山だよね?すごい綺麗!」

「ほんまやな。めっちゃくっきり見えとる。」


じりじりと焼かれるような暑さを一瞬忘れるくらい、目の前に広がるのはまさに絶景だった。


「綺麗すぎて写真みたい!」

「そんな喜んでくれると連れてきた甲斐あるわ。」

「ありがとう。運転お疲れ様。」


惜しげも無く向けられる笑みに、こういうところが本当に代わりがきかないと実感する。

親しき仲にも礼儀ありを体現する麻衣子は、些細なことでもありがとうを言ってくれる。長く一緒にいるとなあなあになりそうなところを大切にしている。
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