続*おやすみを言う前に
「運転のお礼は何?ちゅー十回くらい?」
「えー。」
「おまけして五回にしたってもええけど?」
「ほっぺに一回。」
「それは値切りすぎやろ。大阪のおばちゃんもびっくりやわ。」
即座にツッコむと麻衣子は笑い声を上げた。
ちょうど南天近い時刻と重なりとても暑いけれど、東京のコンクリートジャングルと比べると涼しく感じる。湖面を滑る風のせいか、深緑のせいか。
暑い暑いと繰り返しながら、二人で繋いだ手を汗ばませながら、箱根神社の御本殿を目指し歩いた。
緑の木々や店が立ち並ぶ中、ところどころに現れる真っ赤な鳥居や社はどこか幻想的。自然と人工物の対比が非日常感を募らせる。
「鳥居デカイな。」
「そうだねえ。綺麗な色。」
「平日と言えど夏休みやし、やっぱ混んどるな。」
「そうだねえ。」
麻衣子は辺りを見渡しきょろきょろしながら歩いている。
前方に立ち止まるカップルがいて、右側を凝視したままそれに気付いていない麻衣子がぶつかりそうになり、慌てて手を引いた。
「危なっかしいな。前見とらんかったやろ。」
「へへ。ありがと。」
「ちゅー追加な。」
「えー、やだ。」
「やだってなんやねん。」