プロポーズは金曜日に
第十金曜日
「……麻里」
今日は金曜日。
すっと声が一段低くなったので構えれば、思った通り、ぶわりと途端に色気が漂う。
あ、伊波くん眼鏡取った。
きた。これはきた。
声が一段低くなって眼鏡を取って私の名前を呼んだら、変なスイッチが入って、伊波くんがおかしくなってしまうのは確定だ。
……ここのところずっと、そうなのだ。
「俺と結婚してみない?」
「え、やだ」
即答した私に、へにゃりと眉を下げた目の前の人。
美しいその瞳を、眼鏡のレンズ越しに呆れて見つめる。
「何で駄目なんですか麻里ー……」
「だって伊波くん俺とか言わないでしょ」
伊波くんは「俺」とは言わない。
たとえ言うとしたって「俺と結婚してみない?」じゃなくて、「僕と結婚してみませんか、麻里」だろう。せめて。
それに、私にとって結婚は、してみるものじゃなくてしたいものだ。
その言い方はあんまり嬉しくない。
「…………」
むう、と膨れ面を作る彼氏さんは、相変わらず金曜日だけ変になる。
金曜日の夜、私と伊波くんが二人きりのときだけ、明らかに——変に、なる。
今日は金曜日。
すっと声が一段低くなったので構えれば、思った通り、ぶわりと途端に色気が漂う。
あ、伊波くん眼鏡取った。
きた。これはきた。
声が一段低くなって眼鏡を取って私の名前を呼んだら、変なスイッチが入って、伊波くんがおかしくなってしまうのは確定だ。
……ここのところずっと、そうなのだ。
「俺と結婚してみない?」
「え、やだ」
即答した私に、へにゃりと眉を下げた目の前の人。
美しいその瞳を、眼鏡のレンズ越しに呆れて見つめる。
「何で駄目なんですか麻里ー……」
「だって伊波くん俺とか言わないでしょ」
伊波くんは「俺」とは言わない。
たとえ言うとしたって「俺と結婚してみない?」じゃなくて、「僕と結婚してみませんか、麻里」だろう。せめて。
それに、私にとって結婚は、してみるものじゃなくてしたいものだ。
その言い方はあんまり嬉しくない。
「…………」
むう、と膨れ面を作る彼氏さんは、相変わらず金曜日だけ変になる。
金曜日の夜、私と伊波くんが二人きりのときだけ、明らかに——変に、なる。