【完】『けったいなひとびと』
◇1◇

抜擢


創立二百年を記念して編まれた、化粧品メーカーである株式会社花輪屋の社史によると、初代は文化年間の庄内藩の鶴岡城下の商人・本間新右衛門とされる。

庄内領内で産出される紅花に目をつけ、大石田からの水運を活かし、京へ回船で運んで紅を売り、島原遊廓の遊女の贔屓を得たことから商売が広まった…と記されており、明治になると当主はそれまでの酒田から横浜へ移り、舶来の化粧品を扱う企業へと展開し、戦後は本社を東京へ移した。

昭和の終わり頃まで代々の社長は本間家の世襲で、バブルに乗っからず東京の株式に上場をしなかったことから、その後の氷河期も安定した経営であった。

が。

世紀をまたいでリーマンショックのあたりから少し傾き、左前になっていた時期にアメリカの投資ファンドが買収し、熊本大地震の前年に、投資ファンドのニューヨーク本社から派遣された三十五歳の幹部が、社長に就任している。



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