【完】『けったいなひとびと』
いっぽうの駿は駿で、
「店は嗣がなあかんし、せやかて東京での仕事をほっぽり出す訳にも行かんし」
ということで、誰にも打ち明けることなく考え込む日もあった。
いつもならパッと決めてパッと動く駿が、である。
いかに見切りが肝心とは頭で咀嚼できてはいても、それが伴わないのでは話にならない。
ただ。
駿の場合、こうした空気を察したのは母親であった。
「あんたな」
「ん?」
「うちの酒屋、うちらもう年やしなんとかしたいねん」
それは暗に閉店を意味した。
しかし。
例の祇園の女将たちは伊福部酒店から仕入れている。
そこを考えると。
簡単に店を畳むという訳にもゆかないのである。