【完】『けったいなひとびと』

いっぽうの駿は駿で、

「店は嗣がなあかんし、せやかて東京での仕事をほっぽり出す訳にも行かんし」

ということで、誰にも打ち明けることなく考え込む日もあった。

いつもならパッと決めてパッと動く駿が、である。

いかに見切りが肝心とは頭で咀嚼できてはいても、それが伴わないのでは話にならない。

ただ。

駿の場合、こうした空気を察したのは母親であった。

「あんたな」

「ん?」

「うちの酒屋、うちらもう年やしなんとかしたいねん」

それは暗に閉店を意味した。

しかし。

例の祇園の女将たちは伊福部酒店から仕入れている。

そこを考えると。

簡単に店を畳むという訳にもゆかないのである。



< 110 / 128 >

この作品をシェア

pagetop