【完】『けったいなひとびと』
結局。
年内いっぱいで伊福部酒店は店を畳み、駿は東京での仕事一本に絞り込むという結論が出た。
「うちら年寄りのために、あたら若者が犠牲になることはあらへん」
という母親の一言が、決定的なターニングポイントであった。
そのための支度は約半年近く前から始まった。
少しずつ在庫を減らし、
「ま、いわゆるフェードアウトってやつですわ」
と母親は笑った。
「そら当たり前やろ。年取った婆さん一人で何できまっかいな」
少しずつ在庫を減らしたあと、酒を入れる冷蔵庫に空きが出るとすぐ売った。
ちょっとずつというのが味噌で、
「今のうちに新しい仕入れ先だけは決めといてや」
という意思の表示でもある。
祇園や宮川町でも三ヶ月前ぐらいとなるとさすがに気がついたようで、
「惜しいなぁ」
と言いながらも店を変える人すらあった。