【完】『けったいなひとびと』
いよいよ閉店まで一ヶ月となったのは年末である。
街のあちこちでクリスマスの歌が流れ、レンガ造りの教会からは讃美歌の練習も聞こえる。
十二月に入ってすぐ、駿は例の梅野屋の女将のもとへお歳暮を届けに行った。
毎年のことだが、駿にすれば学生時代以来である。
渡して帰ろうとすると、
「あんたちょっとそこ座り」
女将に言われては座らざるを得ない。
「あんた店畳むの反対やったんやてな」
「そらそうでっせ」
うちがなくなったら祇園のお店やさんお酒どないすんですか…と言うのである。
「そら思い上がりやで」
「えっ…?」
「仕入れぐらい何とかなる。あとな、あんたみたいに若いのが、田舎でくすぶってたかてそれは話になりしまへん」
「はぁ…」
「東京で一旗あげるんも、親孝行やで」
そういうと、女将は茶封筒を渡した。
「これ餞別って訳やおへんけど、向こうで目一杯気張ってきーや」
「…ありがとうございます」
駿は深々とお辞儀をした。