【完】『けったいなひとびと』
珍しく強い調子での東上の要請に、
「また何かこないだのイケメン弁護士の事件よろしくトラブったんかなぁ」
と、気が気でないまま夜行バスの切符を押さえ、深夜の京都駅を出立した。
年末の夜行バスは少し混雑気味ではあった。
が。
男一人が旅をするぶんには、余裕で切符を確保できたのである。
駿が夜行バスを使うなどというのは、まだ紫野の大学に通学していた時分、旅先であった博多から新幹線で帰るつもりが大雨で止まってしまい、已む無くバスに振り替えて西陣まで帰って来たとき以来である。
ついでながら。
駿の学生時代というのは、阪神大震災が駿の高校一年生のときで、それから関西は長く、建築や不動産以外は不景気な時期でもあった。
それだけに。
紫野のときの駿の先輩たちは内定すら出来ず、駿ですら就職は一発で内定をもらえなかったほど不遇な年代でもあったから、
──自分探し。
と称し旅をする学生が数多いた頃でもある。
駿も多分にもれず、貯金で買った四万円の古い軽の自動車で日本を一周し、しかしその見聞の広さが内定を決めた…といった経緯があった。