【完】『けったいなひとびと』
車窓からヘッドライトやテールライトを眺めてぼんやり考えているうち、いつの間にか眠りについていたらしい。
駿が起きたときにはすでに横浜駅の近くであった。
駿はまだ朝が早いのを時計で確認し、横浜駅で降り、仕込みで起きているはずの川崎の柏木に電話を入れ、
「いきなり悪いな」
と言い、店の隅で身支度をさせてもらい、ついでに賄いの卵丼で腹ごしらえをしてから、まだ空いていた南武線で武蔵小杉まで出、懐かしい東横線に乗った。
本社のビルは最寄りの駅が神谷町であったからあとは日比谷線に乗るだけで、何となく記憶で乗ってみたが、意外と体がルートを覚えていた。
本社に着いてみると少し早かったので、コンビニで買った文庫本で時間を潰し、ぼんやり窓の外を眺めていた。
車で通勤していたからか気づかなかったが、案外木々が多くて、椋鳥や鵯が賑やかしく鳴いていたり、中庭に真っ赤な椿が植えられて、ちらほら花を咲かせていたことに、駿は今更ながら気がついた。
「灯台もと暗しとは言うたもんやな」
ひとりごちて笑んでみると、見慣れたシルエットが来た。
「あ、伊福部くんおはよー」
紫である。
「今日は朝一で仕事?」
「何か社長が火急の要件やから来い言うて、せやから夜行バスで京都から来た」
「うわぁー…大変だなー」
紫は心配そうに眉間にしわを寄せた。