【完】『けったいなひとびと』

そうしたなか。

駿が秘書室から出てきたところ、

「伊福部くん、もしかして社長と付き合ってる?」

と紫が何気なく──でもなかったようにも見えるが──訊いてみると、

「なんで?」

と駿からは返ってきた。

「だってみんな噂してるよ…あれはどう見ても怪しいって」

「女の子の勘みたいなもんか?」

「まぁそんなとこかな」

「でもなぁ、俺タイプちゃうし」

そういえば駿の好みは個性的な女の子である。

「そう言えばそうだよね」

紫は半ば釈然としない顔であったが、その場を離れた。

夜になってその件をさやかと電話で話し合ってみると、

「実はね、私もさとみちゃんから指摘されたよ」

このまま続けて隠すべきかどうか、この日に結論は出なかったが、数日後になって紫から秘書室へ連絡があって、

「週刊誌の記者って人から社長について、記事が出ますって」

ということになり、

「社長、どないいたしますか?」

いつもの冷静な駿の声だが、内心は穏やかならざるところがあったらしい。



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