【完】『けったいなひとびと』
秘書室の担当の仕事の一つに、
「スケジュール説明」
という行程がある。
説明は基本的に持ち回りで、毎日三人で交替で社長室で日程の説明をし、社長の質問にもすぐ応えられるようにしておく。
この日は駿の当番で、
「本日の予定ですが、まずヒトヒトマルマルから梅鉢薬品の本多社長と会談、ヒトフタサンマルから顧問の方々と昼食を兼ねた懇話会、ヒトサンヨンマルからは…」
というように他とは違う説明をする。
ちなみにヒトサンヨンマルとは十三時四〇分の違った読み方で、これは営業時代に取引先の会長からのアドバイスで取り入れたものである。
最初は社長の秀島さやかも戸惑ったが、慣れてくると楽なもので、
「あ、今日は伊福部室長の日だ」
と駿の担当する日で曜日や日付の感覚が分かるようになっていた。
一連の説明を終えて退室しようとすると、
「伊福部室長」
「はい」
「つかぬことを聞くけど、伊福部室長は結婚は…してないみたいね」
いつの間にか薬指を見ていたらしい。