【完】『けったいなひとびと』
川崎
話はその日の朝までさかのぼる。
ビルのエレベーターホールは共同で、上層階と駿たち花輪屋のあるミドルフロアの面々が唯一遭遇するのが、このエレベーターホールである。
さとみはビルのそばにある郵便局まで書類を投函するため降りてきたのだが、そのときアッパーフロアの社員から、
「何だ、花輪屋のブスOLか」
と聞こえよがしに言われたのである。
「そのとき私、何にも言い返せなくて…悔しくて悔しくて」
思い出したらまた泣けてきたらしい。
思わず駿は、
「けっ、烏滸(おこ)なこと抜かしくさってからに」
とボソッとこぼした。
「そんなん言うたかて、あいつらみんな祇園や宮川町なら一見さんで出入りできんやろが」
思わずさとみのすすり泣きが止まった。
「一見さんって…」
「せや、あいつらみんな一見さんや。うちなんかようオトンの使いで祇園にお酒配達しに行っとったけど、とにかく東京のなんちゃらヒルズとかああいうとこの若いのは、ろくに来んくせにすぐ芸妓の水揚げは要求してくるし、とにかく遊びが下品やって評判最悪やってんで」
口調は完全に西陣の酒屋のそれに戻っていた。