【完】『けったいなひとびと』
こうした駿の面倒見の良さは、室長になってからも変わらない。
むしろ。
商談の礼状や懇話会のお土産など、ちょっとした気遣いが要る場面で駿の面倒見の良さは発揮され、
「あの女社長、若いのにしっかりしてる」
と、いわゆる財界のうるさ方と呼ばれた大企業の経営者たちの間で評判を呼ぶようになり始めている。
特に。
関西の財界のトップといわれた堺屋銀行の池辺頭取という気難しい人物と会談をする際には同行し、
「社長はまだまだだが、部下がこれだけちゃんとしているなら」
というので、関西空港での免税店の事業のための融資を取り付けることに成功まで果たしている。
これにはさやかも、
「これは伊福部室長のおかげだね」
と手を取って喜んだ。
しかし。
「それは社長の手柄ですからねぇ。俺はなーんも大したことしてへんよって」
と、あくまで秘書室長であることを忘れていないことも、駿の特徴であった。