【完】『けったいなひとびと』
結局のところ。
駿が折れる形で、柏木のお好み焼き屋へと連れてくる羽目になったのである。
「私お好み焼き屋って初めて」
さやかは社長室で眼鏡越しに、冷徹な目で仕事を処理する普段の顔とは明らかに違う、三十五歳の普通の女性の顔になっている。
「お好み焼き屋でこんなに目キラキラした女の人もはじめてやな」
駿は笑うしかない。
「まぁアメリカにはお好み焼き屋はないでしょうしねぇ」
柏木が焼きながら言う。
「いや、ニューヨークにあるにはあるんだけど…行くタイミングがなくて」
「俺なんかニューヨークどころか、東京に勤務するまで箱根から東に行ったことすらあらへん」
駿は箸休めの生姜をつまみながらチビチビと酎ハイを飲んだ。
「ところで社長さん、伊福部って社内でモテてまっか?」
思わず駿は吹き出しそうになった。
「私が見てる限り女の子の受けはいいみたいね」
さやかは駿を凝視した。