【完】『けったいなひとびと』
駐車場の一番奥に、黄色のケータハムセブンがある。
「社長、乗ってください」
リュックを後ろに積んでさやかを助手席に押し込み、運転席に駿が座って、幌を出しエンジンをかけた。
そこそこな爆音である。
「…行きます!」
駐車場のスロープを登り切って、会見場の品川めざして駿はハンドルを切る。
「とにかく会見は、早いに超したことはないですよって」
しかし。
さやかはさやかで、こんな重要な局面で、不謹慎なのも承知の上で胸中がなぜかときめいてゆくのを、どうすることも出来ずに座っていた。
「まぁこんなことでもないと、男の人の車なんてなかなか乗らないし」
などと、自らを言い聞かせるようなことを呟いてみせるものの、
「…悪くない」
という思いも消せなかったのは事実であったらしい。
しかし。
駿は怒るそぶりすらなく、
「社長、酔ったらスピード落としますから言ってください」
などと、決死の眼差しでハンドルをさばいてゆく。
あとで分かった話だが、祇園で軽トラックに酒瓶を載せて配達したこともあるだけに、細い道はお手の物であったらしく、
「まさか祇園での配達があんな場面で役立つとは」
と、駿は後日述懐している。