【完】『けったいなひとびと』
年老いた父母の酒屋の仕事の手伝いは案外忙しかったが、ひさびさに祇園の店へ品物を卸しにゆくと、
「あら珍しい」
と、あちこちの女将や板長から声をかけられ、そこで根掘り葉掘り訊かれるので仕方なく素直に答える。
すると女将あたりからは、
「そんな目に遭わされて、それは不条理や」
と憤る女将もあった。
しかし。
「いや女将さん、うちかて東京へホイホイ行ったんがあかんかったんかなって」
そう笑いながら返すと、女将も笑ってくれるので、そこだけは救いであった。
駿も外を回り、いろんな人と話すひさびさの労働は、秘書室長のときには味わえなかったことであり、このままフェードアウトして、酒屋を嗣いでも構わないような気を起こす夜もある。
それでいて。
京都支社に日報を書くためあらわれると、
「伊福部をこのまま京都に埋もれさすのが忍びんくて、よかれと思って東京に送り出したんやが、あかんかったんやな」
と支社長は、みずからが推挙したことを詫びた。
「それは支社長のせいやないと思います」
気にしていない、と駿は笑い飛ばしたのであった。