【完】『けったいなひとびと』
このときばかりは、
「室長って達筆なんですねー」
と、新人秘書のさとみだけが誉めてくれる。
「まぁ実家で桐箱に書かされたりしとったからな」
この芸当はそうそう真似できるものでもなかったらしく、のちの話になるが忘年会や新年会の横断幕から、果ては株主総会の横断幕まで書かされたことまであった。
それは置く。
のし書きが終わって一息ついていると電話が鳴った。
「はい、秘書室です」
晴加が受けた。
「…分かりました」
そう晴加が電話を切ると、
「室長、社長からお呼び出しです」
一瞬、コーヒーを飲む手が止まった。
「…社長室に?」
「はい、なんでもスケジュールの件で室長に話があるそうです」
「…俺にはないけどな」
つぶやきながらも、上着をはおってファイルを手にすると、秘書室を出た。