【完】『けったいなひとびと』
秘策
その秘策というのが、
「君は社長の椅子にとどまる。その代わり」
僕の妻になって、指示に従ってもらう…というプランであった。
それまで。
どんな苦境に立たされても、さやかは途中で投げ出すことをしなかった。
それは、
「苦しいのは社長だけではない」
という思いと、駿のようにプライドを胸に毅然と職務をこなしてきた自負があるからであった。
それが。
今は灯火が消えようとしている。
自分を曲げてでも花輪屋を守るべきか、社長を辞めるべきか、それはすぐに決められる話ではない。
「…三日だけ、考える時間がほしい」
さやかは答えた。
「なるほど、三日待てばいいんだね」
護の返答は意外にあっさりしていた。
「これまで何年も待たされてきたんだ、三日ぐらい訳はない」
護は「良い返事を待ってるよ」と捨て台詞を残して、社長室を出た。
入れ替わりに、さとみが入ってきた。
「秀島社長…いいんですか?」
「さとみちゃん、舞ちゃんもここに呼んで」
さやかは言った。