【完】『けったいなひとびと』
さとみは指示どおり舞を社長室に連れてきた。
「あなたたち二人には、今まですごくお世話になった。だから」
と、さやかはそれぞれに、それまで書類にサインをするときに使っていた万年筆を手渡した。
「社長…」
「私はいいの。でもあなたたちには未来がある。だから、これからは好きなように生きてほしい」
さやかの覚悟が分かったのか、さとみは大粒の涙を流しながら、
「私、社長に何かあったらお供するつもりなんですよ!」
と万年筆を突き返した。
「私は社長を裏切って去るなんて出来ないし、こんなとき伊福部さんや晴加先輩がいたらどうしただろうって、考えながらやってきたし…」
「ありがとう…でもね」
「…私も秀島社長を見捨てるのはイヤです」
舞も万年筆を返した。
「二人ともありがとう。だけど、これ以上なにかあったらあなたたちにも危険があるかもしれない。それにさらすのは、私の本意じゃないのね」
「社長…力になれなくて、ごめんなさい」
さとみは耐えられなくなったのか、幼児のような大声で泣き出した。
「あなたたちは悪くない」
さやかは立ち上がると、さとみと舞の肩を優しく抱いた。