【完】『けったいなひとびと』
この夜。
駿が蟄居する西陣の酒屋に、来客があった。
「…はい」
見ると、薄汚れたジャージ姿の若い女性である。
「伊福部駿さん、いますか?」
駿が呼ばれた。
見て、驚いたどころではない。
「…堤くんやないか」
顔は煤だらけであったが、間違いなく堤晴加である。
「まぁとにかく入り」
と、まず風呂を立てて晴加に入浴してもらい、その間に服が汚いので、洗濯機を回そうとした。
貴重品を別に保存するために母親がジャージのポケットを探っていると、ポケットから、何やら封筒が出てきた。
「…駿、これ」
母親の手には花輪屋のロゴが入った封筒がある。
裏を見た。
汚れてはいたが、
「覚書」
と駿の字で、小さく書いてある。
「これは本間顧問の…!」
かつてなんとなく頼んで書いてもらった覚書である。