【完】『けったいなひとびと』

それと、と晴加は、

「伊福部さんに謝らなきゃならなくて」

「?」

「席次の資料、あれはイケメン弁護士の指示で、私が持ち出したんです」

「…へ?」

「持ち出して本間新吾に渡したら彼女にしてやるって言われたから…」

そんなことまでしてたとは、と駿は唖然とした。

しかし。

「でもうちは自宅待機で長いこと放置されとるし、東京の本社は竹内護が押さえとるし…」

駿といえども、手だてがない。

「…あんた、梅野屋の女将さんに話してみ?」

母親が何か思い付いたようである。

「梅野屋の女将さんに?」

梅野屋とは祇園では指折りの老舗で、高台院に仕えた梅野玄蕃という豊臣家の厨番(くりやばん)を初代とする。

「こういうときには、梅野屋の女将さんや」

母親は駿をけしかけると、支度をさせて祇園へ向かわせた。



< 86 / 128 >

この作品をシェア

pagetop