【完】『けったいなひとびと』
それと、と晴加は、
「伊福部さんに謝らなきゃならなくて」
「?」
「席次の資料、あれはイケメン弁護士の指示で、私が持ち出したんです」
「…へ?」
「持ち出して本間新吾に渡したら彼女にしてやるって言われたから…」
そんなことまでしてたとは、と駿は唖然とした。
しかし。
「でもうちは自宅待機で長いこと放置されとるし、東京の本社は竹内護が押さえとるし…」
駿といえども、手だてがない。
「…あんた、梅野屋の女将さんに話してみ?」
母親が何か思い付いたようである。
「梅野屋の女将さんに?」
梅野屋とは祇園では指折りの老舗で、高台院に仕えた梅野玄蕃という豊臣家の厨番(くりやばん)を初代とする。
「こういうときには、梅野屋の女将さんや」
母親は駿をけしかけると、支度をさせて祇園へ向かわせた。