【完】『けったいなひとびと』
京都支社へ戻った駿は、
「西陣の酒屋を嗣ぐことにしましたので」
と言い、退職願を出した。
支社長は保留にし、
「秀島社長が戻ったら、またお前は秘書室長になれるかも知れへんのやで」
と慰留したが、
「秘書室長の代わりはなんぼでもいてますけど、伊福部酒店の跡継ぎに代わりはいてませんので」
と、スパッと退職してしまったのである。
駿が退職したのをさとみが聞いたのはしばらくしてからで、
「…辞めちゃったんだ」
と言い、舞と二人で新しい秘書室長に誰が来るのかを待つ身になった。
他方で。
堤晴加はというと。
内規に引っ掛かって退職をしたあと、実家の和歌山に戻ってからしばらくして結婚したが、花輪屋の仕事のことはほとんど他人に語らず、そのまま専業主婦になったとの話であった。