嘘つき赤ずきん 思春期オオカミ



────生徒会室。


「わあー//」


「綺麗だなあ」


「金持ちの塊だな」



4人は、生徒会室と、書かれた金色のドアを見つめ歓声を上げた。


怜乃が、ドアをノックする。



「会長、新入生徒をお連れしました」



ギィ……


音を立てて、開いたドアの向こうには高そうな椅子に腰掛ける少年がこちらを見据えていた。


思わず惹き込まれそうになる、彼の笑顔に4人は声も出せずに少年を見ていた。


少年は綺麗な顔立ちをしていて、どこか人を惹き付けるようなオーラの持ち主だった。



「ありがとう♪れーのん」


「会長、自己紹介した方がいいと思いますよ」



真央の言葉に、「そうだね」と少年は笑った。



「僕の名前は、折笠寿輝也(オリカサジュキヤ)。生徒会長だよ、よろしくね♪」



すっげえ、キラキラネームだな。


4人はそう思った。


だが、口には出せなかった。


続いて、先程案内をしてくれた怜乃が前に出る。



「会計次長の蒼井怜乃(アオイレノ)です。よろしくお願いします」



ペコリと頭を下げる彼。


大人しそうな、物静かな雰囲気の持ち主だった。


その次に出てきたのは、4人が見知った人物。



「風紀委員の、葉山真央。……よろしく」


「え?真央風紀委員なの?一番風紀乱してそうなのに……」


「死ね」



鋭く睨まれた鈴は、それ以上口を出すことは無かった。


真央の次に出てきたのは、端正な顔立ちをした茶髪の少年だった。


タレ目で、優しそうな雰囲気の少年。



「書記次長の、花崎凌音(ハナサキリョウト)だよ、よろしく♪」



その名前に、香絵良が反応する。



「凌音って……まさか、モデルのRYO-TO!?」


「そうだよ♪」


「ま、まじ……」



モデルの笑顔にやられ、香絵良は倒れ込んだ。


次に出てきたのは、金髪の少年。


欠伸をしながら、面倒くさそうに4人を見た。



「副生徒会長、神山蓮水(カミヤマハスミ)……。よろしく」



こちらも、やはり驚くほど顔が整っている。


日本人にしては明るすぎる綺麗な金髪。


おそらく、ハーフなのだろう、そう思っていれば再び聞こえた明るい声。



「以上で、生徒会の紹介は終わりかな?」



にこやかと、微笑む寿輝也の笑顔に不覚にも惹き付けられた。


彼は4人の目の前に紙を差し出す。



「これは……?」


「この紙にサインして」


「サイン……?」



一体何の───


瑠香が小首を傾げれば、寿輝也はクスッと笑んだ。



「安心して。別に変な契約とかじゃないから。ただ───」


「?」



寿輝也の目が、真っ直ぐ瑠香の瞳を射抜いた。


先程までの明るい雰囲気はなく、その顔は真剣だった。


その雰囲気に、4人は─いや、その場にいた全員が圧倒されていた。



「今から言うことは、他言無用。」


「え……」


「────いいね?」



強い瞳に見つめられれば、「はい」と返事をするしかなかった。


それほどまでに、寿輝也が放つ雰囲気は重かったのだ。


そんな彼女達の様子を見て、寿輝也は安心して微笑むと言葉を続けた。



「良かった。その様子なら、大丈夫そう。じゃ、これからこの学園のルールについて説明するね♪」


「ルール……?」


「そ♪───じゃあお願い、知世(チセ)くん」



能天気な彼に呼ばれて、出てきたのはとても小柄で、可憐な少女。


長くカールされたまつ毛に、大きな瞳。


黒髪がふわふわしていて、編み込みが入っていた。


((((か、可愛ええ……))))


彼女達は、一瞬見惚れたがそれはすぐに間違いだと気づく。



「はい、会長」



彼女……いや、“彼”から発せられた声音は、可憐な少女とは全く、別物であった。


同性のわりには、低くかすれた声。


驚いて、目をぱちくりさせると、寿輝也が楽しそうに笑う。



「ああ、知世くんは、男の子だよ♪」


「───えぇええ!?」



そんな叫びをあげ、彼を見つめれば確かにズボンをはいていた。


それに、よく見たらその顔にあわない喉仏まで。


少女達は、肩を落とした。



「知世くん、また間違われてるねー。ま、知世くんは僕の優秀な秘書なんだ♪」


「は、はあ……」



鈴が、頬をかきながら返答した。


知世は、どうでもよいのか、顔は無表情だった。


全く、リアルな人形と言えば彼くらいだ。


知世は、手元にある資料に目を通すと彼女達の方向を見た。



「……まず、この学園のルールについて話します。

この学園は、元男子校で荒れた生徒が多くいました。

その為、理事長は少しでも華やかにしようと共学をすることに決めたのです。

ですが、それは逆効果。

そのせいで、たかが外れた思春期発情オオカミ共が、次々と女生徒に、████(自主規制)を…………」



可憐な外見からは、想像もつかないほど淡々と語られた言葉。


香絵良は、素直に思った。



(いや、ガッツリ下ネタやん)



そこに、真央も同調した。



(知世さん……あの顔でよくあんな下ネタを……)



だが、相変わらず知世は無表情だ。


そればかりか、全く、動じず以前淡々と資料を読み上げるだけ。



「彼らは、そういった行為を“狩り”と呼び、次々と新入生徒を襲い続けました。

それを止めるべく生徒会が、企画した制度。

その名も───」



【婚約制度(エンゲージ制度)】



その言葉に、4人は反応した。



「エン、ゲージ?」


「はい。

男子生徒には、それぞれ自分をモチーフとした唯一無二のピアスが両耳につけられています。」



知世の言葉を聞き、鈴は隣にいる真央の耳元を反射的に見つめた。


彼の耳には、深い紺色と金色の縁取りがあるピアス。


形は、狼をモチーフとしたピアスのようだ。


そして、真央のイニシャルがお洒落な筆記体で描かれていた。


まじまじと観察していると、不機嫌そうな瞳と視線がぶつかる。



「何?まじまじ見つめて……」


「真央の、ピアス見てたー」



素直にそう答えた鈴に、真央はため息をついた。




「……そのピアスの片方を、異性に渡せば、
仮婚約(エンゲージ)成立。

あくまでも、仮ですけどね。

仮婚約ピアスを交換して、仮婚約を成功させると君達はその男子生徒以外には体を、心を与えないでください。」



「つまり、浮気とかしたら……」



チラ、と瑠香は横目で寿輝也を見つめた。


寿輝也は、相変わらず綺麗なあの笑顔で。




「うん、処刑するよ♪僕達生徒会がね」




そんな黒いことを言えるのだから。


処刑、その言葉に震えたのは瑠香だけではない。


邪悪な言葉の響きが、4人の脳にこだまする。



「わっかりましたー、この学園のルール」



先に不穏な空気を破ったのは無邪気な声。


いや、ただKYなだけなのだが。


鈴の能天気な声に、こちらも無邪気な笑顔を向ける寿輝也。



「……良かった。

それから、生徒会は絶対的な権力を持っているんだ。

逆らったら…………」



「どうなるか、分かるね?」表情の読めない、まっさらな笑顔で言う寿輝也に、一同は恐怖を覚えた。


笑顔で人を殺すというのは、まさしくこのことだろう。


4人の表情を読み取った寿輝也は、先程とは違う柔らかい笑みを向けた。



「そういうことで、よろしくね♪」


「……あの。」


「ん?何ー、れいれい」



即席でつけられた、あだ名に一瞬困惑する鈴。


まあ、いいか……いや、いいのか?と、自問自答をする鈴を面白そうにみる彼。


だが、すぐに無駄だと思ったのだろう。


鈴は、口を開いた。



「私たちが、生徒会に入ることは可能ですか?」


「ん〜、ごめんね。今、生徒会には入れないんだ……。

それに、生徒会にはいくつか条件があって……」



申し訳なさそうに、彼は笑んだ。


鈴は、「そうですか……」と少し肩を落とすが、そこまで興味があるわけでもなくすぐに引き下がる。


そんな鈴の肩をトン、と叩くと瑠香は小さく「ドンマイ」と言った。



「じゃあ、教室に戻って。

……あ、“初狩り”は大変だけど頑張ってね♪」




「────え?」



最後に意味深な言葉を残し、彼は笑んだ。


扉が閉まる際、ギィ……とドアが音を立てた。





───まるで、



何かを予兆するかのように。






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