嘘つき赤ずきん 思春期オオカミ





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「…………どこ行くんだよ」



「「「「へ??」」」」



真央の言葉に4人は首を傾げた。


そうだろう。


4人が思う教室とは、右の廊下を曲がった突き当たりにある場所だったのだ。


だが、真央が歩く方向はその教室とは真反対の廊下。



「そっち、違うよ真央?」


「お前がな。その方向は一般教室。」


「一般教室?」


「そ。お前らは俺達と同じ、特待生だろ?」



その言葉を聞いて、4人は納得する。


4人は、変な面接を受けていて、たしかその内容が特待だの、そんなことを言っていたような気がしたからだ。



「だから、そういう部門で入った奴らは全員特別クラスのジーニアス科に入るんだよ」



ジーニアス科……。


何とも甘美な響きなのだろう。


4人は、満足そうに微笑むと教室の扉の前で立ち止まる。


驚くことに、1クラスしかないようで、ジーニアス科というのはとても珍しいもののようだ。


ガラッ……


そんなことを考えていると、教室の扉が開いた。


真央が、先に入りその後に続くように4人は教室に入った。



『あ、真央クン♪』


「……おはよ」



真央が入るなり、近づいてきたのはその豊満な胸を武器とした化粧が濃すぎる女生徒。


腰をくねらせ、誘惑を思わせる動きで真央を上目遣いで見るが真央は、素っ気なく挨拶を返す。


その様子に、(真央モテルの?)と鈴がショックを受ける。


鈴がチラ、と彼を見ればいつもと変わらない横顔。


その顔は、初対面の人から見ればかなり整っている顔。


だが、いつも見ている鈴にとって彼の顔がイケメンという認識はなかった。



『今日も、カッコイイ~♪♪』

『やっぱ、生徒会はオーラが違う///』



そんな、黄色い声を通りすぎて真央は席についた。


日頃から見ている彼の明るい様子はなく、どこか冷めたような瞳をする真央。


鈴は、不思議に思うも、彼の雰囲気にそれ以上は口を出せなかった。



「はーい、席つけ~」



明らかにズラ(カツラ)と呼ばれる、物体をつけた担任が入ってくる。


酷く気だるそうに。


担任は、4人の存在に気づいていない様子。


そのまま、話を始めようとする担任に真面目そうな男子が立ち上がった。



「先生」


「何だ、田中。先生は、森中じゃないぞ。森野だからなー。」


「誰も、言ってません。それに僕は田中じゃなくて吉川です。」



明らかに間違いようがない、名前の間違いに香絵良が我慢出来ず吹き出した。


だが、クラスのモブ(吉川)は、短調に話を続けた。



「転入生が、来るって聞いたんですけど」


「転入生……?ああ、確か名前が……

相川、七瀬、山口、美作だったよな……」



おそらく、名前間違いだろう。


だが、4人に向けられたのは“肯定しろ”と言ったような担任の目。



「先生、それは退学した生徒です。」



メガネのブリッジをくい、と上にあげ吉川は森野を見つめた。


だが、森野はその言葉に何故か涙を流す。



「あぁ、知ってる。……でも、俺にとってあいつらは大切な生徒で───「知るかボケ!」



カオス。


教室内が、一瞬にして、こう、なんか変な空気になったのだ。


香絵良が、呆れたように森野の姿を見つめた。


そこで、ようやく正常に戻った森野は、4人に告げた。



「じゃあ、4人。自己紹介して」


「「「「はーい」」」」



能天気に返事をして、4人は皆の前に出る。


生徒達の目が、一斉に4人に集まる。


まずは、鈴が前に出る。



「桜乃鈴です♪好きなものは、イケメンで、嫌いなのはブサメンでーす」


(いや、下心丸出しやな!!)



クラス中の心のツッコミが炸裂する。


鈴は、そんな視線を気にせず瑠香にバトンタッチをする。



「柳田瑠香。好き嫌い特になし。よろしく」


(短っ!!)



続いては、香絵良。



「高月香絵良。好きなものは……



ジャニーズ!!!」



(今の間は必要ですか!?)



最後に出たのは、由帆。



「日下部由帆だよ~。好きなのは……え~と、わかんないや!あはは~」


(うん、この子馬鹿だね!)



クラスの皆がツッコミに疲れる中、森野から席についてと言われ4人は指定された席につく。


鈴が、席につくと隣で呆れた表情を見せた真央。



「あ、真央と席隣だ~」


「あ、うん。とりま、離れてください」



鈴が、真央の腕を組んだことによりクラス中の男子生徒の視線が突き刺さる。


その恐怖に、真央は負けたのだ。


真央が再びため息をつくと、耳に入る男子生徒のひそひそ声。


こういう時は、嫌でも耳に入る。



『おい、見たか?』

『あの4人、超可愛いな///』

『なー///』



真央は、その言葉に顔をしかめると、目の前に映る無邪気な幼なじみの笑顔を見る。


(何にも、知らないんだな……)


だから、無防備なんだ、と言おうとした所で、彼の携帯が振動した。


画面に目を通せば、グループラインのメッセージ。


何気なく、開いてみると予想通りの内容だった。



「はあー。まじお前、この学校来たこと、後悔すんなよ?」


「だから、さときから何さー」


「……これ、見てみろよ」



鈴の目の前に、画面をかざす。


鈴は、不思議そうにその画面を見つめた。



〈画面〉



tomo︰なあ、見た?てんこーせい


圭人︰見た見た。超可愛いな(´∀`∩)↑age↑


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「……?普通のトークじゃん」


「続きみてみろ」



真央が、画面を下にスクロールした。


そこで、見た内容に、鈴は、目を見開いた。




〈画面〉



tomo︰で、どーするよ初狩り


田中︰それは、もちろん……



────スタンプが送信されました


赤ずきんが、狼に襲われるスタンプ。



圭人︰おっと、そのスタは~??


田中︰ヤルしかないでしょー♪♪


ゆーと︰皆胸でかい!!たまらんww


tomo︰何言ってんのお前(爆)
ま、とりあえず


tomo︰何回イクか試そーぜww


ゆーと︰さーんせいっ


田中︰初狩りはこーじゃなくちゃ♪


圭人︰一時限目終わったら、決行なー




ーーーーーーーー



「な、に……これ…」



鈴は、思わず口をおさえる。


拒絶反応ともいえる、その行動に真央は冷めた表情で鈴を見つめた。



「だから、言っただろ。

一見皆、清楚にしてるけど、脳内は思春期真っ只中の、発情狼どもだ。」


「……」


「逆ハーなんて、甘ったれたもんじゃない。

ここは、狩りという名目で男どもが性欲を解消する、男だけの楽園なんだよ」



彼女の瞳が、大きく揺れた。


それは、恐怖なのか。


悲しみなのかは、よく分からなかった。


ただ、彼女は小さく呟いた。



「真央も……そうなの?」


「───は?……俺は」



口を開こうとしたが、言葉はそれ以上は出なかった。


そんな真央を見つめ、鈴は再び悲しそうな顔をした。


そして、鈴は彼の方向を見向きもせず俯いたまま言葉を吐き出した。



「──やっぱり、真央は変わったね……」


「っ───」



一瞬、彼の表情が強ばる。


彼もまた、小さく息を漏らした。


鈴の後ろの席に座っていた瑠香は、
「何かあったの?」と席から身を乗り出した。


真央は、そんな彼女に素っ気なく返すと、再び正面を向いた。





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