派遣OLの愛沢蜜希さんが、ヤサぐれ社員の久保田昇に神様を見るお話
愛沢を生贄に実践中。
「最近、ちょっとイケてない?久保田」
「最近、黙ってれば騙せるかもしれないよね。久保田」
「最近、カリスマに切らせた、とか言ってたよ。久保田」
キスマイのあいつに似てる。AAAのラップ君でしょ。エグザイルの1番右。
どれに1番近いのかと、それぞれが探っている。
お昼休み、いつもの化粧室においても、その話題で持ちきりだった。
〝久保田昇がイメチェン。……髪型を変えた!〟
私が、僭越ながら、と勇気を出して髪型を変えるように提言したその次の日の事である。ザワつくオフィスを、久保田はドヤ顔で歩き回った。笑いたいのを我慢して、私は久保田に近付くと、「その髪型、いいじゃないですか」
主の機嫌を取るのも奴隷の仕事だ。
「生田斗真だったらなぁー……とか言うんだろ」
「それ、生田斗真に似せたんですか?」
ウソでしょ。
「違げーよ。長谷川博巳だよ」
「……すみません。誰も気が付かなくて」と、みんなの分も謝っておいた。
この時、私と久保田が見詰め合った……と周りは見ていたようだが、殆ど睨みあった、に近い。その後も「何だ何だ」「何が起きたんだ?」寄ると触ると女子に囲まれ、髪の毛に触れられ、久保田昇は上機嫌だった。
「愛人が出来ると男って変わるもんだね」
「愛沢さんて、いわゆる、あげまん?」
化粧室の会話は、妙に昭和臭い気がする。一応言うけれど、久保田は独身だ。
「最近、愛沢さんが雑用全部やってくれるから楽だし。久保田のセクハラも吸収してくれるし。マジ神だわぁ。ありがてー」
久保田のおかげで、私まで神扱いにされているとは……つい微笑んだ。
「あの人、久保田公認の奴隷なんだってさ」
その言葉のインパクトは化粧室に少なからず衝撃を与えた。「うげ」「ぐぐぅ」と女性群の反応は、同情と軽蔑を行ったり来たりする。
「そっか。王様と奴隷か」
えぇ~、久保田が王様?と、誰かのブーイングが起きた。
「どう見ても、サルとチンパンジーじゃない?」
きゃははは!
……それは嫌だな。
女性群が消えた頃を見計らって、個室を静かに出る。鏡に向かって。
「サルとチンパンジーなら、私は愛嬌のあるチンパンジーの方にしてね」
目の前でそう言えたら、どんなにか。
この所……実状、役員の私の扱いに変化があった。彼氏のいる女に手は出せないと僅かながらも良心が芽生えたのか、派手なセクハラはナリを潜めている。
人事では、あの久保田を手懐けて上手くやってる派遣だと、高評価が渦巻いた。
奴隷扱いだという噂を聞き付けたならば、それは可哀想だと助けてくれる人が出てくるかもしれない。どう転んでも、私にはいい事ずくめである。
「間違いなく、神様だわ」
誰も居なくなった化粧室で、私は鏡に向かって両手を合わせた。
陰で何をされようと、何でも無い。最近は妙に楽しみを見出している。
見た目。匂い。その次に来るのは何かな?
そんな事を考えながら、4階に戻ってきた。
いつになく空気が張り詰めていると感じていたら、3課の中央に妙な空洞が出来ていて、周囲の野次馬はそこを遠巻きに眺めている。
何やら諍いが起きているらしい。野次馬の1人になって覗き込んだら、いつか私と抱き合った営業の女の子、それがど真ん中で泣いているのだ。
目の前で、大声で怒鳴り散らしているのは、うちの女性課長だった。
「仕事が遅いの。ちょっとは努力してる?前も言ったよね?わざわざ口頭で頼む事は急ぎなの。会議が終わって戻ってきたと思ったら、もうっ!」
怒りの概要は分かった。この課長はいつもなら用事をメモで置いていく。わざわざ口頭でやって来るのは、急ぎの時だ。私は肌感覚でそれを理解した。
……だけど。
〝褒める時は皆の前で。叱るときは、こっそりと〟ではなかったか。
そんな新人教育の常識は何処へ行ったのか。それも、この研修会社で。
これは八つ当たりに近い。営業へ向けて何か不満でも溜まっているのか。新人なら当たりやすいと狙われたのかもしれない。大人しく、嵐が過ぎ去るのを待つしかないと思った。
「何やらせても出来ない。全く成長しない。これだから、ゆとりは!」
……それ、言っちゃう?
思うのは私だけではないと思う。そこら中で不穏な空気がふわふわと漂った。
その時だった。
「ゆとりがトロいのは当たり前だろ。ボコボコにされるとは珍事だな」
久保田は、3課のど真ん中、椅子にふんぞり返ってコーヒーを飲んでいた。
「ビジネスマンを成長させるのがウチの使命なんだろ?モノになるまで徹底的に指導する、それが我が社のポリシーって聞いたけど、違ったか」
恐ろしいくらいに正論だった。
その堂々とした態度に、まるで別人を見るようで周囲も驚きを隠せない。
ただ経験と実践が伴わない言葉だった。それが久保田を地獄的に残念にする。
そこへ、「なるほど」と、たまたまやって来ていた営業部長が顔を覗かせた。
上杉東彦。
第5営業部のキレ者。林檎さんの恋人。恐れる人も多々いる。
まるで専用の歩道があるみたいに、進んでいく端から人波が割れた。
「クズの言う事にも一理ある」
「くだらねぇって、だけです」
上杉部長と久保田は、本来の敵を公然と無視して対峙した。
「なかなか説得力があって驚いた。我社のノウハウが効いたのかもしれない」
「いいえ。原石をクズにしてくれた、誰かのお陰です」
まるで、教育を間違えた親と喧嘩する高校生みたいだと思った。上杉部長は、久保田など端にも引っ掛からないという様子で、今度は女性課長と向き合うと、
「新人が使えないとは、自分の管理能力は役に立たないと振れ回ってるようなものだ。この業界の面汚し。己れの無能を世間に晒して、この先ここら界隈で働く所は無いと思った方がいい。少なくとも、俺はもう相手にしない」
事実上の、断絶だと感じた。当人は絶句したまま、その場で震えている。
いい気味というより、そこまで言わなくても、と私は女性課長が少々気の毒になった。この上杉部長が悪魔に見える。敵に回したくないかも。あの林檎さんがまともに付き合っている所が想像つかない。
「来月、2回目の法人研修だけど」
一瞬、上杉部長が誰に向けて投げかけたのか、それが分からなかった。
だが普通に考えたら、担当の久保田だろう。
「中長期的な育成目標①を達成する為のスキーム、プロセス・フローをフレームにして、根拠のあるデータと共に絞り出してこい」
一体、何をどれだけ要求されたのか、1度で理解できなかった。久保田がイライラするのも分かる気がする。あれは必死で戦っているのかもしれない。
見ていると、久保田はのんびりとコーヒーを飲み干した。上杉部長を明らかに無視している。周りが3倍ヒヤッとする中、久保田はゆっくり立ち上がって、
「こっちは忙しいんです。現在、俺は派遣の愛沢を調教中なので」
急に話を振られて、そこらじゅうの社員の目が私に集中した。……そんな。
振られても困る。ここからどう終息に向かわせるのか、描けない。
〝貧乳派遣女子の命がけ延命講座〟。
〝無能人事のOL調教ハウツー〟。
「などなど」
久保田は、聞くに堪えない雑言を晒して、
「俺が愛沢を生贄に実践中です。キレッキレで編み出してるんで」
余裕ありません……と穏やかに、それでいて全く温度を感じない声だった。
「面白い」
上杉部長は感情を無視して、それだけ言うと、
「それが出来たら持って来い。いつかのお返しに、俺の名前で出してやる」
久保田が企画をパクった事をあげつらっているのは一目瞭然だった。なのに、上杉部長と久保田の間には妙な連帯感が生まれたような錯覚が起きる。
神様と悪魔。
どっちがどっちなのか、しばらく混乱。居心地の悪さを感じてか、久保田はデスクを離れてオフィスを出て行く。私はすかさず、その後を追い掛けて、
「久保田さん、言うじゃないですか。やればできる子じゃないですか」
あの上杉部長と同等にやりあった事を褒め千切った。
「うるせぇよ。キモいんだよ。わざわざ、それだけ言う為に来るな」
きっと褒められ慣れていない。ズバリ、久保田は照れている。上杉部長じゃないけど、久保田を面白いと思った。これは思いがけず遊べるかもしれない。
「何だその目は?それは誰なんだ」
「え?」
「誰とスリ替えてサカってんだよ。真っ赤になってんじゃねぇ。ムカつく」
本当に顔が熱くなった。慌てて、「さ、三代目Jsoul bro……ッ」
つい、噛んでしまう。
「あんなヤンキーと一緒にすんな」と、久保田が舌打ちした。
ふと。
見た目。匂い。その次に来るのは当たり前と言えば当たり前だが、内面。
つまり性格ではないか。
今日のようなエピソードが重なれば、久保田がヒーローになるのも夢じゃない。ぱちぱちと泡が弾けるみたいに妄想が膨らんだ。
「久保田さん、そのヤサぐれキャラ……そろそろ卒業しません?」
「うるせぇよ。クソが」
そう上手くはいかないか。頑固なヤサぐれは、更生には程遠い。
だが……久保田は、ゆとりを救った英雄だ。確かに、一瞬ヒーローだった。
今まで、久保田昇は徹底的に悪魔でいてくれてこそ、私の神様だったのに。
だが、これからは、今の久保田が在るのは愛沢のおかげだと、彼の好感度が自分に跳ね返る日がやって来るかもしれない。方向転換が必要かもしれない。
久保田昇が内面を変えて、好感度を上げるためには何が必要か。
ライバル、か?
私は気が付かなかった。陰ながら、私を見詰めているその存在を。
〝久保田昇のライバル〟という、その大きな大きな存在を。
「最近、黙ってれば騙せるかもしれないよね。久保田」
「最近、カリスマに切らせた、とか言ってたよ。久保田」
キスマイのあいつに似てる。AAAのラップ君でしょ。エグザイルの1番右。
どれに1番近いのかと、それぞれが探っている。
お昼休み、いつもの化粧室においても、その話題で持ちきりだった。
〝久保田昇がイメチェン。……髪型を変えた!〟
私が、僭越ながら、と勇気を出して髪型を変えるように提言したその次の日の事である。ザワつくオフィスを、久保田はドヤ顔で歩き回った。笑いたいのを我慢して、私は久保田に近付くと、「その髪型、いいじゃないですか」
主の機嫌を取るのも奴隷の仕事だ。
「生田斗真だったらなぁー……とか言うんだろ」
「それ、生田斗真に似せたんですか?」
ウソでしょ。
「違げーよ。長谷川博巳だよ」
「……すみません。誰も気が付かなくて」と、みんなの分も謝っておいた。
この時、私と久保田が見詰め合った……と周りは見ていたようだが、殆ど睨みあった、に近い。その後も「何だ何だ」「何が起きたんだ?」寄ると触ると女子に囲まれ、髪の毛に触れられ、久保田昇は上機嫌だった。
「愛人が出来ると男って変わるもんだね」
「愛沢さんて、いわゆる、あげまん?」
化粧室の会話は、妙に昭和臭い気がする。一応言うけれど、久保田は独身だ。
「最近、愛沢さんが雑用全部やってくれるから楽だし。久保田のセクハラも吸収してくれるし。マジ神だわぁ。ありがてー」
久保田のおかげで、私まで神扱いにされているとは……つい微笑んだ。
「あの人、久保田公認の奴隷なんだってさ」
その言葉のインパクトは化粧室に少なからず衝撃を与えた。「うげ」「ぐぐぅ」と女性群の反応は、同情と軽蔑を行ったり来たりする。
「そっか。王様と奴隷か」
えぇ~、久保田が王様?と、誰かのブーイングが起きた。
「どう見ても、サルとチンパンジーじゃない?」
きゃははは!
……それは嫌だな。
女性群が消えた頃を見計らって、個室を静かに出る。鏡に向かって。
「サルとチンパンジーなら、私は愛嬌のあるチンパンジーの方にしてね」
目の前でそう言えたら、どんなにか。
この所……実状、役員の私の扱いに変化があった。彼氏のいる女に手は出せないと僅かながらも良心が芽生えたのか、派手なセクハラはナリを潜めている。
人事では、あの久保田を手懐けて上手くやってる派遣だと、高評価が渦巻いた。
奴隷扱いだという噂を聞き付けたならば、それは可哀想だと助けてくれる人が出てくるかもしれない。どう転んでも、私にはいい事ずくめである。
「間違いなく、神様だわ」
誰も居なくなった化粧室で、私は鏡に向かって両手を合わせた。
陰で何をされようと、何でも無い。最近は妙に楽しみを見出している。
見た目。匂い。その次に来るのは何かな?
そんな事を考えながら、4階に戻ってきた。
いつになく空気が張り詰めていると感じていたら、3課の中央に妙な空洞が出来ていて、周囲の野次馬はそこを遠巻きに眺めている。
何やら諍いが起きているらしい。野次馬の1人になって覗き込んだら、いつか私と抱き合った営業の女の子、それがど真ん中で泣いているのだ。
目の前で、大声で怒鳴り散らしているのは、うちの女性課長だった。
「仕事が遅いの。ちょっとは努力してる?前も言ったよね?わざわざ口頭で頼む事は急ぎなの。会議が終わって戻ってきたと思ったら、もうっ!」
怒りの概要は分かった。この課長はいつもなら用事をメモで置いていく。わざわざ口頭でやって来るのは、急ぎの時だ。私は肌感覚でそれを理解した。
……だけど。
〝褒める時は皆の前で。叱るときは、こっそりと〟ではなかったか。
そんな新人教育の常識は何処へ行ったのか。それも、この研修会社で。
これは八つ当たりに近い。営業へ向けて何か不満でも溜まっているのか。新人なら当たりやすいと狙われたのかもしれない。大人しく、嵐が過ぎ去るのを待つしかないと思った。
「何やらせても出来ない。全く成長しない。これだから、ゆとりは!」
……それ、言っちゃう?
思うのは私だけではないと思う。そこら中で不穏な空気がふわふわと漂った。
その時だった。
「ゆとりがトロいのは当たり前だろ。ボコボコにされるとは珍事だな」
久保田は、3課のど真ん中、椅子にふんぞり返ってコーヒーを飲んでいた。
「ビジネスマンを成長させるのがウチの使命なんだろ?モノになるまで徹底的に指導する、それが我が社のポリシーって聞いたけど、違ったか」
恐ろしいくらいに正論だった。
その堂々とした態度に、まるで別人を見るようで周囲も驚きを隠せない。
ただ経験と実践が伴わない言葉だった。それが久保田を地獄的に残念にする。
そこへ、「なるほど」と、たまたまやって来ていた営業部長が顔を覗かせた。
上杉東彦。
第5営業部のキレ者。林檎さんの恋人。恐れる人も多々いる。
まるで専用の歩道があるみたいに、進んでいく端から人波が割れた。
「クズの言う事にも一理ある」
「くだらねぇって、だけです」
上杉部長と久保田は、本来の敵を公然と無視して対峙した。
「なかなか説得力があって驚いた。我社のノウハウが効いたのかもしれない」
「いいえ。原石をクズにしてくれた、誰かのお陰です」
まるで、教育を間違えた親と喧嘩する高校生みたいだと思った。上杉部長は、久保田など端にも引っ掛からないという様子で、今度は女性課長と向き合うと、
「新人が使えないとは、自分の管理能力は役に立たないと振れ回ってるようなものだ。この業界の面汚し。己れの無能を世間に晒して、この先ここら界隈で働く所は無いと思った方がいい。少なくとも、俺はもう相手にしない」
事実上の、断絶だと感じた。当人は絶句したまま、その場で震えている。
いい気味というより、そこまで言わなくても、と私は女性課長が少々気の毒になった。この上杉部長が悪魔に見える。敵に回したくないかも。あの林檎さんがまともに付き合っている所が想像つかない。
「来月、2回目の法人研修だけど」
一瞬、上杉部長が誰に向けて投げかけたのか、それが分からなかった。
だが普通に考えたら、担当の久保田だろう。
「中長期的な育成目標①を達成する為のスキーム、プロセス・フローをフレームにして、根拠のあるデータと共に絞り出してこい」
一体、何をどれだけ要求されたのか、1度で理解できなかった。久保田がイライラするのも分かる気がする。あれは必死で戦っているのかもしれない。
見ていると、久保田はのんびりとコーヒーを飲み干した。上杉部長を明らかに無視している。周りが3倍ヒヤッとする中、久保田はゆっくり立ち上がって、
「こっちは忙しいんです。現在、俺は派遣の愛沢を調教中なので」
急に話を振られて、そこらじゅうの社員の目が私に集中した。……そんな。
振られても困る。ここからどう終息に向かわせるのか、描けない。
〝貧乳派遣女子の命がけ延命講座〟。
〝無能人事のOL調教ハウツー〟。
「などなど」
久保田は、聞くに堪えない雑言を晒して、
「俺が愛沢を生贄に実践中です。キレッキレで編み出してるんで」
余裕ありません……と穏やかに、それでいて全く温度を感じない声だった。
「面白い」
上杉部長は感情を無視して、それだけ言うと、
「それが出来たら持って来い。いつかのお返しに、俺の名前で出してやる」
久保田が企画をパクった事をあげつらっているのは一目瞭然だった。なのに、上杉部長と久保田の間には妙な連帯感が生まれたような錯覚が起きる。
神様と悪魔。
どっちがどっちなのか、しばらく混乱。居心地の悪さを感じてか、久保田はデスクを離れてオフィスを出て行く。私はすかさず、その後を追い掛けて、
「久保田さん、言うじゃないですか。やればできる子じゃないですか」
あの上杉部長と同等にやりあった事を褒め千切った。
「うるせぇよ。キモいんだよ。わざわざ、それだけ言う為に来るな」
きっと褒められ慣れていない。ズバリ、久保田は照れている。上杉部長じゃないけど、久保田を面白いと思った。これは思いがけず遊べるかもしれない。
「何だその目は?それは誰なんだ」
「え?」
「誰とスリ替えてサカってんだよ。真っ赤になってんじゃねぇ。ムカつく」
本当に顔が熱くなった。慌てて、「さ、三代目Jsoul bro……ッ」
つい、噛んでしまう。
「あんなヤンキーと一緒にすんな」と、久保田が舌打ちした。
ふと。
見た目。匂い。その次に来るのは当たり前と言えば当たり前だが、内面。
つまり性格ではないか。
今日のようなエピソードが重なれば、久保田がヒーローになるのも夢じゃない。ぱちぱちと泡が弾けるみたいに妄想が膨らんだ。
「久保田さん、そのヤサぐれキャラ……そろそろ卒業しません?」
「うるせぇよ。クソが」
そう上手くはいかないか。頑固なヤサぐれは、更生には程遠い。
だが……久保田は、ゆとりを救った英雄だ。確かに、一瞬ヒーローだった。
今まで、久保田昇は徹底的に悪魔でいてくれてこそ、私の神様だったのに。
だが、これからは、今の久保田が在るのは愛沢のおかげだと、彼の好感度が自分に跳ね返る日がやって来るかもしれない。方向転換が必要かもしれない。
久保田昇が内面を変えて、好感度を上げるためには何が必要か。
ライバル、か?
私は気が付かなかった。陰ながら、私を見詰めているその存在を。
〝久保田昇のライバル〟という、その大きな大きな存在を。