派遣OLの愛沢蜜希さんが、ヤサぐれ社員の久保田昇に神様を見るお話
「デカい財布だな」
「俺の奴隷に、どんな拷問だ?」
口火を切った久保田は、さっそく喧嘩腰だった。
「奴隷制度は崩壊よ」と、林檎さんも負けてない。仁王立ちで胸を張る。
愛沢蜜希は、高町グループの社長とお見合いする事になった……いえ、まだそこまでは。それを聞いた途端、久保田は不自然な程に無表情になった。
かと思ったら、「デカい財布だな」と口先で笑う。
「せいぜいボロボロになるまで社長サマに、こすってもらえ」
「そうだよ?今から遊んでおかないと社長夫人は大変だよ?あー忙しい!」
「おまえ関係ないだろ」
2人がやり合うのを、私は黙って聞いていた。自分だけ置いてけぼりにされて、ずいぶん経っている。何だか気持ちが持ち上がらない。
「ま、良かったじゃん。社長サマが相手なら、くだらない妄想も必要も無い」
林檎さんが言い返そうとする所を「そうですね」と私は横から割り込んだ。
「久保田さんの奴隷よりは好い思いすると思います」
「マジ萎えた。ハイ終わり」
最初から試合放棄。それでこそヤサぐれ界のカリスマ、久保田昇。
ネクタイ、髪型、香水。彼は次々と変わった。高町社長と言うライバルの存在が、また久保田を別人に変えてくれるかと期待したが、それは大外れ。
ライバルというには相手がデカ過ぎる。だから、最初から勝負にならないと諦めてしまう。あるいは……大物と戦う程、そこまで私を惜しいと思っていない。
派遣は居ても居なくても、という世間とどこが違うのか。
「僭越ながら」
1度、大きく深呼吸した。
「久保田さん、あなたはいつもデカい事いう割には小さくまとまって口だけの男です。相手の足元見て態度変える男の典型。最初っから逃げる人。気を付けないと、そのうち世界中から嫌われますよ」
「こらこら。何ドラマ盛り上げてんだよ」
「そりゃ盛り上げますよ。今はあなたの奴隷ですから。不埒に遊んだ事なんか無いくせに、女の前で格好つけてばっかりの御主人様ですけど」
「だから何だ?何で俺がお前にダメ出し喰らうんだ?うるせぇんだよ、クソが」
「最後のアドバイスですよ。久保田さん、暇過ぎて死にたくなりません?パクリを恐れてコンペにも御無沙汰。〝派遣の延命講座・OL調教ハウツー〟でしたっけ。ちゃんと考えてます?」
瞬間、久保田は握り拳を壁に叩き付けた。
その破裂音に、林檎さんが縮こまる。
久保田は肩を震わせて、荒い呼吸を繰り返した。林檎さんを目の前に、トラウマのコンペを突き付けるという私の暴挙が、久保田を本気で怒らせて。
「派遣のクセに好い気になるな!」
以前は良く使われたこのフレーズ。最近はコンプラも進化してきて、それを何の躊躇も無く声に出すビジネスマンなど、この所は滅多にお目に掛らない。
だからだと思う。久しぶりに、私にも火が点いてしまった。
「林檎さん、私、会います。その高町社長と。すぐにでも」
林檎さんが、ぴくりと反応した。
「そろそろ、私もまともな王様に仕えてみたいと思いました」
「蜜希ちゃん、そんな仕えるって……そ、そこまで自分を堕とさなくても」と、林檎さんは恐る恐る私の様子を下から窺ってくる。
「そう来るか」
そこから久保田は、あと10センチの至近距離まで迫って来た。
「喧嘩売ってんのか。いいだろう。俺が粉々にブチ壊してやる」
それを聞いた時、ヤサぐれて斜めに構えている久保田が本気でブチ壊しにやってくる……そんなキレた場面を見てみたいような、不思議な妄想に捉われた。
誰ともスリ替わってなどいない。久保田そのまんまが妄想領域に現れる。
「それ本気で言ってます?口だけならもう」
「忘れたか。おまえは今、俺の奴隷だ。勝手にちょろちょろ動くな」
為す術も無く立ちすくむ林檎さんをそのままに「仕事に戻れ」と久保田は乱暴に私の肩を掴んだ。そのまま勢い、誰も居ない会議室に引っ張り込まれる。
いつかみたいに髪の毛を握られて、壁に押し付けられた。
「力に訴えないと、奴隷には勝てませんか」
「うるせぇよ」
久保田は、すぐにスカートの下から手を差し込んできた。その手は簡単にストッキングを裂いてしまう。本能のままに、横暴に、下着を割り込んで入って来た手は、下から持ち上げるようにお尻を掴んだ。
その手を温かいと感じる事は屈辱なのか、女が抵抗できない本能なのか。
そうしながら、久保田の唇は首筋から胸元、その先まで、今日は迷いなく進んでくる。さっきのやり取りが、思いがけない領域にまで刺激を与えたのかもしれない。……また香りが変わっている。こんな時に、そんな事に気付いた。
片手は下着の上から、1番敏感な所を探ろうとして、そこら中をムダに彷徨う。
辿り着いたと知った時、「あ……」思わず久保田の胸に顔を埋めた。
抵抗しないどころか、感じている自分が急に恐ろしくなる。思わず身体を逸らしたら、そこから久保田は急に大人しくなった。
まさか……それだけで臆病になったの?久保田が?嘘でしょ。
「そろそろ慣れろよ。マジで萎える」と悪態付いて弱気を隠そうとするようにしか見えない。まるで、私だけが欲しがっているみたいな理不尽を感じた。
「そっちも……そろそろ本気になって下さいよ。こっちも萎えます」
外で誰かの声がして、息が上がるのを抑えながら、慌てて衣服を整えた。
高町社長の話を受けた後だから、まるで浮気したみたいで気分が悪い。
久保田の手の感触が、いつまでも体に残る。いつまでもザワついて離れない。
よく見たら、手は痣になっていた。
私は久保田に求められたのか。それとも、単なる八つ当たりだったのか。
私は久保田に感じたのか。それとも、アラサーの自分勝手な欲求不満なのか。
こんな中途半端のまま……私は高町社長と会う。
口火を切った久保田は、さっそく喧嘩腰だった。
「奴隷制度は崩壊よ」と、林檎さんも負けてない。仁王立ちで胸を張る。
愛沢蜜希は、高町グループの社長とお見合いする事になった……いえ、まだそこまでは。それを聞いた途端、久保田は不自然な程に無表情になった。
かと思ったら、「デカい財布だな」と口先で笑う。
「せいぜいボロボロになるまで社長サマに、こすってもらえ」
「そうだよ?今から遊んでおかないと社長夫人は大変だよ?あー忙しい!」
「おまえ関係ないだろ」
2人がやり合うのを、私は黙って聞いていた。自分だけ置いてけぼりにされて、ずいぶん経っている。何だか気持ちが持ち上がらない。
「ま、良かったじゃん。社長サマが相手なら、くだらない妄想も必要も無い」
林檎さんが言い返そうとする所を「そうですね」と私は横から割り込んだ。
「久保田さんの奴隷よりは好い思いすると思います」
「マジ萎えた。ハイ終わり」
最初から試合放棄。それでこそヤサぐれ界のカリスマ、久保田昇。
ネクタイ、髪型、香水。彼は次々と変わった。高町社長と言うライバルの存在が、また久保田を別人に変えてくれるかと期待したが、それは大外れ。
ライバルというには相手がデカ過ぎる。だから、最初から勝負にならないと諦めてしまう。あるいは……大物と戦う程、そこまで私を惜しいと思っていない。
派遣は居ても居なくても、という世間とどこが違うのか。
「僭越ながら」
1度、大きく深呼吸した。
「久保田さん、あなたはいつもデカい事いう割には小さくまとまって口だけの男です。相手の足元見て態度変える男の典型。最初っから逃げる人。気を付けないと、そのうち世界中から嫌われますよ」
「こらこら。何ドラマ盛り上げてんだよ」
「そりゃ盛り上げますよ。今はあなたの奴隷ですから。不埒に遊んだ事なんか無いくせに、女の前で格好つけてばっかりの御主人様ですけど」
「だから何だ?何で俺がお前にダメ出し喰らうんだ?うるせぇんだよ、クソが」
「最後のアドバイスですよ。久保田さん、暇過ぎて死にたくなりません?パクリを恐れてコンペにも御無沙汰。〝派遣の延命講座・OL調教ハウツー〟でしたっけ。ちゃんと考えてます?」
瞬間、久保田は握り拳を壁に叩き付けた。
その破裂音に、林檎さんが縮こまる。
久保田は肩を震わせて、荒い呼吸を繰り返した。林檎さんを目の前に、トラウマのコンペを突き付けるという私の暴挙が、久保田を本気で怒らせて。
「派遣のクセに好い気になるな!」
以前は良く使われたこのフレーズ。最近はコンプラも進化してきて、それを何の躊躇も無く声に出すビジネスマンなど、この所は滅多にお目に掛らない。
だからだと思う。久しぶりに、私にも火が点いてしまった。
「林檎さん、私、会います。その高町社長と。すぐにでも」
林檎さんが、ぴくりと反応した。
「そろそろ、私もまともな王様に仕えてみたいと思いました」
「蜜希ちゃん、そんな仕えるって……そ、そこまで自分を堕とさなくても」と、林檎さんは恐る恐る私の様子を下から窺ってくる。
「そう来るか」
そこから久保田は、あと10センチの至近距離まで迫って来た。
「喧嘩売ってんのか。いいだろう。俺が粉々にブチ壊してやる」
それを聞いた時、ヤサぐれて斜めに構えている久保田が本気でブチ壊しにやってくる……そんなキレた場面を見てみたいような、不思議な妄想に捉われた。
誰ともスリ替わってなどいない。久保田そのまんまが妄想領域に現れる。
「それ本気で言ってます?口だけならもう」
「忘れたか。おまえは今、俺の奴隷だ。勝手にちょろちょろ動くな」
為す術も無く立ちすくむ林檎さんをそのままに「仕事に戻れ」と久保田は乱暴に私の肩を掴んだ。そのまま勢い、誰も居ない会議室に引っ張り込まれる。
いつかみたいに髪の毛を握られて、壁に押し付けられた。
「力に訴えないと、奴隷には勝てませんか」
「うるせぇよ」
久保田は、すぐにスカートの下から手を差し込んできた。その手は簡単にストッキングを裂いてしまう。本能のままに、横暴に、下着を割り込んで入って来た手は、下から持ち上げるようにお尻を掴んだ。
その手を温かいと感じる事は屈辱なのか、女が抵抗できない本能なのか。
そうしながら、久保田の唇は首筋から胸元、その先まで、今日は迷いなく進んでくる。さっきのやり取りが、思いがけない領域にまで刺激を与えたのかもしれない。……また香りが変わっている。こんな時に、そんな事に気付いた。
片手は下着の上から、1番敏感な所を探ろうとして、そこら中をムダに彷徨う。
辿り着いたと知った時、「あ……」思わず久保田の胸に顔を埋めた。
抵抗しないどころか、感じている自分が急に恐ろしくなる。思わず身体を逸らしたら、そこから久保田は急に大人しくなった。
まさか……それだけで臆病になったの?久保田が?嘘でしょ。
「そろそろ慣れろよ。マジで萎える」と悪態付いて弱気を隠そうとするようにしか見えない。まるで、私だけが欲しがっているみたいな理不尽を感じた。
「そっちも……そろそろ本気になって下さいよ。こっちも萎えます」
外で誰かの声がして、息が上がるのを抑えながら、慌てて衣服を整えた。
高町社長の話を受けた後だから、まるで浮気したみたいで気分が悪い。
久保田の手の感触が、いつまでも体に残る。いつまでもザワついて離れない。
よく見たら、手は痣になっていた。
私は久保田に求められたのか。それとも、単なる八つ当たりだったのか。
私は久保田に感じたのか。それとも、アラサーの自分勝手な欲求不満なのか。
こんな中途半端のまま……私は高町社長と会う。