君の星、僕の星
五ヶ月前、受験生の立場にもすっかり慣れた九月。
松田先生は、ある朝担任と一緒に教室に入ってきた。
いつも騒がしい教室がしん、と静まりかえる。
担任が教育実習生だと彼を紹介した。
校内にいるオジサン先生たちとは違う、細身のスーツが新鮮だった。
「ども、松田です。一ヶ月お世話になります」
ぺこっと頭を下げた彼は、教室内を見回した。
「あまり真面目な授業は出来ないと思います。あらかじめご了承下さい」
皆がどっと笑う。私もつい吹き出した。
満足そうに微笑んだ松田先生のくしゃくしゃした黒髪が、余計に彼の印象を親しみやすいものにしていた。
私たち女子高生は
ちょっとしたきっかけでいとも簡単に恋に落ちてしまう。
松田先生に人気が集中するのは必然だった。
「佐藤さん」
ある日の放課後、廊下で声をかけられ振り返ると松田先生がちょいちょいと手招きしていた。
「はい」
「ちょっと職員室まで来てくれる?」
二人で職員室まで向かう道すがら、先生はたくさんの生徒に声をかけられていた。
「松田せんせー、数学わかんなーい」
「悪いね。俺、社会科教師。自力で頑張って」
「せんせー、今日もサッカー部の助っ人来てー」
「だーかーら。人足りない時限定だっつの」
一人一人に笑顔で対応する松田先生は、まるで皆のお兄ちゃんだ。