君の星、僕の星
「遅くなっちゃったな」

「大丈夫?」

「大丈夫。残業だった事にするよ」


瀬戸さんはそう言ってシフトレバーを動かした。


不純な夜を切り裂きながら、車は走る。


二人きりだったさっきまでの匂い。記憶。空気。
全てをホテルに置き去りにして、日常に戻るため走り続ける。


「……」


道路沿いに並ぶ街灯の光が車内に差し込み、瀬戸さんの薬指に填められた指輪に反射する。

元アクセサリーデザイナーだったという奥さんがデザインしたそれは他に類を見ない複雑な模様が彫られていて、世界に一ペアしか存在しないらしい。


「ねぇ」


こちらを向く彼が助手席の窓ガラスに映る。



「奥さんと一緒にいる時に私を思い出す事、ある?」


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